第28話 ニアの決意
「なるほど。試験で勝った時に、その相手に罵倒されたのがトラウマで、今回のテストで思うように結果が出せないのか。で、順位は?」
「えっと、28位だった」
「俺より上かい!」
反射的にそう叫んでしまったが、このクラスには俺より上の人間しかいないんだった。なんせ俺が最下位なんだから。
ていうか、俺は実力を出し切れてないニアに負けているわけか。いやまあニアも決していい順位じゃないし、気にしなくていいか。
まあなんにせよ、相談する相手を間違えているとは思う。
「なんでよりによって最下位の俺にそんな相談を?俺に相談したところで多分解決できないと思うぞ?」
「私がグレンくんに相談したのは、別に解決するためじゃないから……」
「え?」
解決するためじゃないとなると、ますますニアの意図が分からなくなる。
「私ね、一学期が終わる頃に、魔導学園辞めようと思ってるの」
「……え?何でそんなことを……」
「……私が勝つたびに、誰かに悪口言われるんじゃないかって想像したら、怖くなっちゃった……何より、大好きな魔法に対して真剣に取り組めない自分でありたくないから」
「……」
「クラスの入れ替えは一学期の最後にやるはずだから、私がグレンくんの変わりにこのクラスの最下位になってBクラスに落ちれば、グレンくんは退学しないで済むでしょ?」
ニアの言う通り、今後も学園で勉強していくためには良い成績を残すために他の生徒と競う場面は増えるだろうし、競った上で誰かから恨みを買う可能性も無くはないだろう。
「どうせ辞めるんだったら、せめてグレンくんが学園に残れるように辞めようと思って……だから、もう不安な顔しなくていいよってグレンくんに言いたくて……」
「……俺、そんな顔に出てた?」
「え?うん」
出会って間もないニアに不安な心境を見抜かれていたなんて、俺はどれだけ分かりやすい人間なんだろうかと、少しだけ恥ずかしくなる。
それにしても、学園辞めるっていうのはちょっとやりすぎな気がした。メンタルが繊細な反面、意思決定能力が非常に高いのは少し危なっかしい。
「提案してくれたとこ悪いんだけど、俺はそういうのいいよ」
「え?なんで?退学回避できるんだよ?」
ニアはなんで?と発した言葉通りの顔をした。この瞬間、ニアは自分の行動がやりすぎなことを自覚していないことがわかった。
「だって、ニアが譲ってくれたからって2学期で最下位にならない保証が無いじゃないか。俺自身が成長して評価点を稼げないんじゃ、ニア1人が俺に順位を譲ったところで意味ないし」
「それは、確かに……」
「それに、ここで辞めるなんて勿体ないよ。せっかく入学できたんだしさ。お父さんもお母さんも、ニアが合格したことをきっと喜んでるよ」
「あ……」
ニアはきっと、俺の言葉で思い出したはずだ。自分を応援してくれる家族がいることを。
学園を辞めようとしたのはおそらく衝動的なものだろう。心が傷ついていたら、大切なものが見えなくなってしまうから。
「だからまあ、もうちょっと頑張ってみないか?もしまた何か言われたりしたら俺に言ってくれよ。ちょっとは楽になるだろうし」
「……うん。私、なんだか色々変だったかも。午後からはちゃんと魔法使えるように頑張る!」
「ああ、その意気だ!」
頑張る、そう言ったニアの顔は、先ほどよりも晴れているように見えた。
何はともあれ、ニアが学園を辞めないよう説得が成功してよかった。人1人の人生を踏み台にして学園に残るのは夢見が悪そうだし。
「そういえば何か忘れてるような……」
そう発してふと、食堂の時計を見た。昼休憩は残り少ししかなくなっていた。
「ヤバい!俺まだご飯食べてない!ニアは!?」
「え?え!?もうこんな時間に……!私も食べてないよお……!」
「急いで注文しよう!」
「う、うん!」
慌てて料理を注文した俺たちは、ものすごい勢いで食事を済ませ、次のテストの集合場所にギリギリで着くことになった。
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