第25話 悪態
「うおー、これまたデカい部屋だな」
「流石は王国最高峰の教育機関と言うわけだな」
この学園に来てから、俺はデカいだの広いだのと発する機会が増えた。
俺たちが今いるのは、校舎から少し離れた場所にある訓練所の中にある一室だ。この部屋には、魔法を当てるための的がいくつも配置されている。他にも色々あるが俺には分からないものばかりだ。
「早速だけど、皆にはこの的に向かって全力で魔法を撃ってもらうわ。この的は、魔法が当たったら魔力の出力を計測する。もし壊れても自動で修復されるから、遠慮なく撃つこと。分かった?」
先生の問いに、生徒たちは頷いた。学園に来て初めての魔法だ。皆の目を見てみると、気合いが入っているのが分かった。
その反面、自身の無さそうな生徒もちらほらいる。さっき廊下でぶつかった子も、なんだか落ち着かない様子だ。
そういえば、俺は俺で先生に聞かなければならないことがあるんだった。
その場から一歩前に出て手を挙げた。
「先生、ちょっと質問があるんですけど……」
「どうしたの?グレンくん」
「俺、あの的に当てられる魔法を持ってないです。というか、エンチャントの魔法しか使えないんですけど、どうすればいいですかね?」
周りの生徒たちに「マジかこいつ」といいそうな顔で見られた。カザガネも仮面を被っていて分からないが、皆と同じ顔をしているだろう。
残念ながら、俺はエンチャントの魔法しか使えないのだ。理由はシンプルで、俺が放出するタイプの魔法に対して明確なイメージが持てないから。
魔法はとにかくイメージが大切だ。試験の時にグレースが使ったアイシクル・バレットなら、氷の弾を飛ばすイメージを頭の中で強く持たなければならない。
俺のブレイズ・エンチャントも、体に纏わせたいなら体が炎に包まれるイメージを、剣に纏わせたいなら剣が炎に包まれるイメージを強く持って詠唱する。
先ほども言ったように、俺は魔法を放つ、撃つといったイメージが頭の中に浮かばないのだ。故に、俺はエンチャントの魔法しか使えない。
「……そうね。じゃあグレンくんには、エンチャントした拳か剣で的を殴ってもらいましょう。それでも計測は可能だしね」
「分かりました。ありがとうございます」
先生は若干返答に困った様子だったが、すぐに案を出してくれた。迷惑かけて申しわけない。悩みは解決したので、俺は一歩下がった。
「はっ、こんな奴が騎士団候補生かよ……」
付近にいた男子生徒に悪態をつかれた。穏便に済ませるには黙っておくのが一番だが、流石にこの言われ方をされればイラっとしたので、聞き返して会話に発展させることにした。
「何か文句でもあるか?」
少しだけ怒気を含めて返した。俺に悪態をついたこの男、俺と同じ赤髪だからおそらく炎魔法使いだろう。魔法による影響を受けていればの話だが。
「別に文句なんてねえよ。ただ、お前みたいに弱いやつが騎士団候補生を名乗ってるのがムカついただけだ」
こいつ……!
明らかに俺を挑発しに来ている。何の意図があるのかは分からないが、ここで挑発に乗ったら俺の負けだ。
それに俺が弱いのは事実だし、言い方はムカつくけどこいつの言ってること自体は間違ってない。
「……はいはい、俺は弱いですよだ」
「引き下がるとかダッサいな、お前」
「ッ……!」
揉め事を起こせば退学、揉め事を起こせば退学……!
その言葉を頭の中で反芻させてなんとか耐えた。だが、収まり切らない怒りが募っていき、たまらず拳を握りしめた。
「はいそこ、説明続けるからお話しない」
先生に注意されて、少しだけ正気に戻った。あのまま拳を握り続けていたら、あいつを殴り飛ばしていたかもしれない。
「ふう……」
なんせまだ入学初日だ。こんな些細な悪態ごとき、いちいち気にしてはいけないのだ。
また、誰かに何か言われたとしても黙っておこう。
そう決意した俺は、やり場のない怒りを抑えながら能力テストに挑むのであった。
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