第23話 トリルエル先生
グレースが「友達作らない宣言」を行ってからしばらく経過し、気がつけば教室にいる生徒の数は目測でも30人程にまで増えていた。騎士団候補生の試験の時にいた人数よりも少し多いくらいの人数である。
ひとつだけ空いている席があるが、もしかして初日から遅刻しているのだろうか。
そんなことを考えていると、教室の扉がゆっくりと開く音がした。ふと視線を向けてみると、そこには見覚えのある人物がいた。
「あ、試験の時の……」
確かあの人は、試験の時に風魔法で色々話したり、俺とグレースが戦えるよう調整してくれた試験監督だった人だ。
この教室に入って来たということは、この人が俺たちの担任となるようだ。全然知らないおっさんが入ってきたらどうしようかと思った。
「どうやらまだ来ていない生徒が1人いるみたいだけど、時間だしHR始めちゃうわね」
先生は教壇に着くと同時に、生徒一人一人を見渡した。途中で俺と目が合ったが、彼女の目線はすぐ他の生徒に逸れていった。
「皆、まずは入学おめでとう。私の名前はトリルエルと言います。一般推薦の皆は初めまして、騎士団候補生の皆はこの前ぶりね」
トリルエル先生の視線が再びこちらへと移ったので、俺たちは軽く会釈を返した。
「みんな事前に通達があったから知ってるとは思うけど、入学初日のスケジュールは朝のHR、入学式、学園の案内、そして能力テストとなっているわ」
うんうん、ここまでは合格通知の後に届いた入学案内と一緒だ。何もかもが初めての事なので少しだけワクワクしてきた。なんかいよいよ学園生活が始まるんだなって感じだな。
「でも、入学式とかぶっちゃけ出ても座ってるだけだし、学園案内も地図が何ヵ所にも置かれているから必要ないと思ったの」
ん?
「だから、うちのクラスはこのHR終わったら入学式も学園案内もすっ飛ばして能力テストをやるわよ」
何を言っているんだろうか、この先生は。
入学初日。まだ出会って間もない、ましてや話してもいない生徒たちの心が、意図せず通じ合った瞬間である。教室はざわめき、皆困惑の表情を見せている。
気持ちはものすごく分かる。なぜなら先生の言っていることがよく分かっていないから。というか、うちのクラスってことは他のクラスはちゃんとやるってことだよな?浮いてないか?1年A組。
すると、流石にそのぶっ飛んだ思考についていけなかったのか、姿勢がものすごくいい男子生徒が先生に向かって挙手をした。
「はい、カモニダくん」
トリルエル先生は当たり前のように生徒の名前を覚えている。姿勢がものすごくいい男子生徒はカモニダと言うらしい。後で話すことがあるかもしれないし覚えておこう。
「先生、なぜうちのクラスだけなんですか?理由がなければ納得できかねます」
「あら、いい質問ねカモニダくん。いいわ、答えてあげる。うちのクラスがなぜ、他のクラスとは違うスケジュールで動くのか、それは――――」
(((((それは……?)))))
「――――あなたたちが学年の最上位クラスである、1年A組だからよ」
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