第19話 遭遇
「そういえばアイツの家、サルトレーバにあるんだよな」
サルトレーバは、この国の貴族街だ。俺みたいな一般庶民は、その街の関係者の許可が無いと入ることができない。
「勢いで出てきたけど、どうするかな……」
俺はと言うと、グレースの合格通知を届けるために王都の市街地を歩いている最中だ。地図を持ってきているので、学園を歩き回った時のようには迷わないだろう。
ただ、関係者の許可が無ければ入れないのでそこが問題だ。
「とりあえずサルトレーバまで行ってみるか」
迷った時はとりあえず動くに限る。サルトレーバの検問所で事情を話せば入れてもらえるかもしれないし。
そんなことを考えていると路地裏の方からやたらと大きな話声が聞こえた。
「おおー嬢ちゃん、いい顔してるじゃねえかぁ!これから俺らと楽しいことして遊ばねーか?なあ」
聞き耳を立ててみたが、明らかに普通のテンションではない。おそらく、酒に酔ったやつらが近くにいた女性にダル絡みでもしているのだろう。
この辺では珍しい事ではない。ただの日常の風景だ。
だからだろうか。周りの人間は助けに行く気配がない。助けに行けば酒に酔った男たちの相手をすることになるのが嫌なんだろう。こういった事案にはいつも騎士団の人間が対応しているのだが、今は近くにいない。
ダル絡みも長引けば事件に変わりうる。俺が行くしか無さそうだ。絡まれている人間が今どういう状況なのか確認するため、路地裏をチラ見した。
絡んでいる男は2人。共に体格は太り気味で、日頃からこういうバカなことをやっている雰囲気が伝わってくる。服も陳腐だ。
その一方で女性は小柄で、心配になるほど肌が白いし手足も細い。綺麗な銀色の髪を後ろでみつあみにしている。あと眼鏡をかけている。育ちは良さそう。
大体位置は把握したので、深呼吸をして路地裏へと足を踏み入れた。
「おいおっさんたち!朝から酔っぱらって人に迷惑かけてんじゃねえ!」
3秒くらいで考えた口上と共に、俺は3人がいるところまで突っ切った。
「なんだこのクソガボゲェッッ!?」
相手が何か言う前に顎の辺りをアッパーで殴った。もちろん怪我が残らないように加減はしてある。
「あ、兄貴ブボォッッ!?」
すかさずもう1人の顎も殴る。顎の辺りを殴ると気絶させやすいとミネンから教わった。
2人とも仲良く地べたに倒れ込んだ。立ち上がってくる気配はない。
「あの、大丈夫です……か…?」
助けた女性の容姿を見て、俺は何か既視感を覚えた。近くで見れば見るほど、既視感は増していく。白銀の髪に、触れるだけで汚れてしまいそうな白く透き通った肌。
「あの、俺たちどこかで……?」
「あら、もう忘れてしまったんですの?つい先日、魔導学園の試験で競いあったばかりではありませんか」
その声を聞いて確信した。眼鏡をかけているし、髪型も服装も前会った時とは全然違うから気づかなかった。
「……お前、まさかグレースか?」
「ええ、わざわざ助けてくださってありがとうございます、グレン」
ただ酔っぱらいから人を助けただけのつもりだったのに、その助けた相手がグレースだとは思わなかった。
まさかの遭遇である。
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