第15話 敗北の苦汁
首元に刺さった氷剣を認識したと共に、闘技場に張られていた結界が解除された。気づけば、俺の首元の氷剣も剣にエンチャントしていた炎も消えていた。
考えるまでもないが、結界が解除されたということは勝負がついたということ。信じられないことに、俺は敗北してしまったのだ、グレース・アイシクルロードに。
その事実を受け入れられず、俺はその場で膝をついた。
「……最後の氷剣、いつ詠唱したやつだ?」
俺が氷弾を打ち落として進んでいる時、グレースは詠唱を行っていなかったはずだ。なのに何故か、知らないうちに氷の剣は生成されていて、俺にトドメを刺した。
時間差で俺に飛んでくるようにコントロールしていたとしても、生成された氷剣を、正面にいた俺の目が捉えていないはずがない。
「あなたがわたくしに迫ってきている最中にですよ」
「詠唱していたようには見えなかったけどな……」
「なぜあなたは、わたくしが無詠唱を使えない前提で話をしているのですか?」
「!」
グレースが無詠唱を使える可能性。
もちろん、考えていないわけでは無かった。なんせ騎士団長の娘だし、それくらい高度な技術を持っていても不思議じゃないからだ。
「でもお前、アイシクル・バレットは詠唱してた……いや、そういうことか」
最初にグレースが詠唱したのを見て、無詠唱が使えるという可能性を頭から無意識的に除外していた。
そしてグレースの氷弾を打ち落として行って、勝利を確信した瞬間の隙を狙われて無詠唱で倒されたというわけだ。
「通常の詠唱を行うところを見せておけば、大抵の人は無詠唱を使ってくる可能性を除外するでしょう。案の定、あなたはそれに引っ掛かり、本来なら打ち落とせる魔法でトドメを刺された」
「くっ……!」
負けた。
「わたくしの勝ちです」
負けた。
「次の試合が始まります。あなたも早く、自分の席に戻った方がいいですよ。それでは」
負けた。
グレースが何か言っていたような気がするが、そんなことがどうでもよくなるくらいに、俺の心は敗北した事実に打ちのめされていた。
ミネンから剣と魔法を教わるために交わした、『王都魔導学園への入学』するという約束を果たすのは、どうやら無理そうだ。
ミネンにどんな顔で会えばいいのか、分からなくなってきた。
落胆しているだろうか。
憤りを感じているだろうか。
ミネンはそんなこと微塵も感じない人物というのはこの6年の付き合いで分かってはいるのだが、どうしても不安になる。
カレナも「大丈夫」だって応援してくれていたのに、期待を裏切ってしまった。合わせる顔がない。
気づいたらグレースも居なくなっている。そういえば、俺が負けたらミネンはグレースの師匠をすることになるのか。
「……戻るか」
闘技場の中心で1人ため息をついた俺は、転移ゲートを潜るため立ち上がった。
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