第14話 勝負
勝負開始の合図と同時に俺は剣を抜き、グレースとの距離を一気に詰めようと足に力を込めた。それと同時に、グレースは魔法の詠唱を行った。
「アイシクル・バレット」
グレースの詠唱をしたその瞬間、いくつもの氷の弾丸が生成され、俺に目掛けて放たれた。
「多いな。でも」
生成された氷弾は全部で20発ほど。サイズは俺の頭と同じくらいだろうか。グレースへの距離を詰めていくと同時に、氷弾との距離も加速度的に縮まっていく。
「打ち落とせない数じゃない!ブレイズ・エンチャントソード!」
俺は魔剣に炎を纏わせた。この魔法は、俺がミネンから教わって習得することのできた唯・一・の・炎・魔・法・だ。俺の魔力量では、使用できる回数も継続できる時間も少ない。なので、この戦闘中に使えるのはこの一回限りだけだろう。
だから俺は、この一瞬に勝負の全てを賭ける。
グレース目掛けて駆け出した足は止まることなく進んでいく。例え進む先に、どれだけの氷弾が待ち構えて居たとしても。
そしてついに、俺の目の前に氷弾がやって来た。その氷弾は、俺の脳天を目掛けて勢いよく飛んでくる。非常に正確なコントロールだ。だがそれゆえに、軌道を読みやすい。
「まずは一発!」
俺は迫ってきた氷弾を、炎を纏わせた剣で切り落とした。
「!」
まさか自分の魔法を剣で切り落とされるとは予想していなかったのか、グレースも何やら驚いた表情をしている。
「まだまだ行くぜ!」
俺はその調子で、迫ってくる氷弾を次々と打ち落としていった。氷弾に込められた魔力はそこまで大きくなく、有利属性である炎属性を纏った剣であれば、容易に打ち落とせるものだった。
打ち落とした氷弾の数が増えていく度、グレースは徐々に後退していった。それでも、俺の詰める速度方が上なので、俺たちの間にある距離は確実に縮まっていく。
そしてとうとう、最後の氷弾を打ち落とした。グレースと目が合う。詠唱をする気配はなさそうだ。剣を抜く様子もない。全ての氷弾を打ち落としたし、邪魔するものは何もない。
勝てる!
勝利を確信した俺は、グレースに剣が届く範囲まで一気に詰め寄った。
もう少しで、剣先がグレースの首元へと届く。
獲った!
そう心の中で叫んだ瞬間、首元に何かが突き刺さる感触がした。
「あっ……あ…?」
痛みは感じない。感じたのは、首に異物があるという不快感だった。
すぐさま首元へと目をやる。そこで俺の目が捉えたのは、透き通るような煌めきを放つ氷の剣が俺の首元へと突き刺さっているという事実だった。
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