第13話 愛剣

 転移ゲートを抜けて目を開けると、そこは闘技場の中心、先ほどまでカレナが戦っていた場所だった。



 その場で少し足踏みをしてみると小さく土煙が舞った。幸い、足の踏ん張りは効くようだった。土煙も視界を遮るほどのものでもないので、大した問題では無いだろう。



 ここからだと、観客席にいる人物が見えにくい。自分がどの席に座っていたのかも分からないし、帰るときに迷ってしまうかもしれない。



 そんなどうでもいいことを考えているその時、俺が転移してきた場所の反対側から声をかけられた。



「逃げずに来たようですわね、グレン」



「そっちこそ調子良さそうだな、グレース」



 先ほどぶりの再会。俺もグレースも互いを睨み合う。出会って1日でこれとは相性が最悪すぎである。睨み合って数秒、俺は満足して目を潜めた。グレースも満足したのか、俺を睨むのをやめた。



 先ほどの服装はそのままにグレースは黒い手袋を嵌めて、細剣を手にしている。



 細剣は軽くて女性でも握りやすい剣種だ。そのかわり一撃の重さは一般的な長剣よりも劣るため、使用者は剣主体で戦うことが少ない。



 つまり、グレースは魔法主体で戦って来るということだろう。彼女の戦闘スタイルを大雑把だが割り出せたのは大きい。



「……ところで、あなたの剣が見当たらないのですが」



 グレースは、ここにきて帯剣すらしていない俺に違和感を覚えたのかそんな質問をしてきた。



 そう、俺はこれから戦うというのに剣の1つも握っていない。まあ、それにも深い理由があるのだ。



 確かに控え室に剣はいくつか置かれていたけど、あれでは肌に合わないと感じた。やはりここは、日頃から振り慣れているものを使うべきだろう。 



「剣ならここにあるぜ。――――コール、イグニス・ヴォルグ!」



 そう叫ぶと、俺の手元に一振りの赤い長剣が現れた。



 その剣は魔力に包まれており、全体的に赤を基調としたデザインで、所々に黒と金の装飾が施されている。



 ミネンに買ってもらった高い剣、イグニス・ヴォルグだ。



 グレースは突如として現れた長剣を見て言った。



「魔剣ですか……」



「ああ。つっても、何か特別な能力が付属してるわけじゃないから安心しろよ。お前との戦いでズルはしたくないからな」



 まあ、あまりに強力な効果を持つ魔剣を使おうものなら教員から止められるだろう。魔剣が強力すぎて受験者の実力が測れないということもあるだろうし。



「対等でありたいというフェア意識があるのはいいことですが、あなたがいくらズルをしようとわたくしが負けることはありませんわ」



「ったく、まだ何も始まってないだろうが」



「始まらなくても分かることです」



「はいはい」



 こちらも背負っているものがある以上、負けるつもりはない。



『両者、距離を取ってください』



 風魔法で指示が届く。俺とグレースは背中を向け合い距離を取り向かい合う。先生からの合図が来たら、俺たちの試験が始まる。運命が決まる瞬間だ。



『それでは両者、試合を始めてください』



「……勝負だ。グレース」



 戦いの火蓋は切って落とされた。

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