第11話 保護者会

「次、グレン・ブエルガンVSグレース・アイシクルロード。試験の準備に取り掛かってください」



 カレナの試験が終了してから数秒、試験教員が送ってきた風魔法で次の対戦カードを知らされた。



「やっと俺の出番みたいだな。でも良かったよ。ちゃんとグレースと戦えるみたいでさ」



 ここまでずいぶんと待たされたものである。カレナの時みたいにいくつか見物しがいのある試合もあったが、基本的に魔法と剣技の見せ合いが多かったので、見てる側としては非常につまらなかったのだ。



 その影響で、これからが本番だというのに、今の時点で妙な達成感がある。待たされた分、気合もしっかり入っている。



「気合が入っているのは良いことですが、あまりヒートアップしないように。最後まで用心してくださいね」



 俺の心情を察してか、ミネンは釘を刺すようにそう言った。対人戦の経験は、ミネン以外とすることがほとんど無かったので、そういう点でも不安なんだろう。



「分かってるって。そんじゃ、行ってくる」



「……ご武運を」



 そうして俺は、グレースと戦うため、少し心配げな表情のミネンを背に観客席を後にした。



※ ※ ※



「そろそろ姿を現してもいいんじゃないですか?団長」



 ミネンがそう呟くと、付近の誰も座っていない席から、男の影が現れた。



 グレースの銀髪と比べて少し青みがかった髪をした彼は、人類最強と謳われる男。生きる伝説、ドリフ・アイシクルロードであった。



「……参ったな。妻に隠蔽魔法をかけてもらっていたのに、まさか気付かれていたとは」



 降参だ、と陽気に言い放つドリフとは裏腹に、周囲の人間はざわついている。騎士団の最高責任者であるドリフと顔を合わせる機会は極端に少ないため、皆動揺しているのだろう。



「ふむ、少々目立ってしまっているな……これは良くない」



「いや、目立ちたくないなら隠蔽魔法を解かなかったら良かったじゃないですか」



「でも私が魔法を解かなかったら、ミネンくんは1人で虚空に話しかけている悲しい人になっていたと思うよ?そこのところは感謝してほしいなあ」



「そういう部下へのイジりはいらないので、ちゃんとグレースを応援してあげてくださいね」



 ドリフのことだから、事前に別行動を取るようにグレースと話していたのだろうとミネンは推測しているが、あれでグレースは寂しがり屋だ。



 一緒に居てやらなかった分、自分の部下をイジるより、ここでしっかり娘のことを応援してやってほしいとミネンは思った。



「それがね、ミネンくん。別行動を要求してきたのはグレースなんだよね」



「もしかして反抗期ですか?」



「反抗期というか、結果を残すために1人で集中したいらしいんだ。今朝言われたんだよ、『ただ見ていてほしい』ってね」



「なるほど……」



 ミネンは、ドリフの言った言葉から1つの推測を導き出していた。



「グレースは、団長に何か見・せ・た・い・も・の・でもあるんでしょうか?」



「さあね。とりあえず、子どもたちがどんな戦いを見せてくれるのか楽しみに待とうじゃないか」



「……そうですね」



 ドリフの言葉を聞いて、言いようの無い不安を覚えたミネンは、もうすぐで勝負が始まるであろう闘技場中心部へと目を向けた。

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