第10話 カレナの実力
試験が開始されて数十分が経過し、俺たちは他の騎士団候補生の試験の様子を観客席で見ていた。
既に10組以上が試験を終えているが、どうにも腑に落ちないことがある。
「加点目当てなのか知らないけど、魔法撃つ奴が多くてつまんないな。碌に剣も使わないし」
「まあ、ここで輝くために鍛えてきた人がほとんどでしょうし、仕方ないですね。ただ剣に関しては、使おうとしているグレンが珍しいだけですよ。ここは魔導学園、魔法を習うところですから」
「それもそっか」
ミネンの言葉は尤もである。俺みたいに普通じゃない目標を掲げてここにいることと、剣を主体で戦うことの方が珍しいのだ。
ちなみに、未だに俺の名前は呼ばれていない。まあ、グレースの名前も呼ばれていないので対戦できるか気にすることではないのだが、こうも出番を焦らされるとなんだかやきもきする。
『次、カレナ・クレンツアインと―――――』
「お、次カレナじゃん」
知った名前の登場に、思わず声が出た。
「おや、クレンツアイン家のご令嬢と既に面識が?」
そういえばミネンは、俺とカレナが既に顔見知りであることを知らないんだった。
「……ここに来るまでの道でちょうど知り合ってね」
迷子になってたところを助けてもらったとは言えないので、とりあえず、当たり障りのない真実だけ伝えておく。嘘ではないから大丈夫……のはず。
「なんですか今の間は……まあいいです。それにしても、クレンツアインのご令嬢、なんとも才能に溢れていますね。あの子は将来化けますよ」
「え?そんな見ただけで分かるもんなの?」
「ただの勘です。おや、そろそろ始まるみたいですよ」
勘かよ、と突っ込む暇も無く、カレナの方を見やった。カレナとその対戦相手は、闘技場の中心で一定の距離を置いて向き合っていた。
この闘技場には特殊な結界が張られており、結界の中で振られた剣、放たれた魔法を食らっても、体はダメージを受けない。
本来、結界内の人間が受けるべきダメージは結界が負担し、結界内でどちらかの人間が致命傷を食らえば、結界そのものが破壊される。
つまり、結界の中で相手に致命傷を与えれば勝ちだ。
「カレナは何の属性を使うんだ……?」
「知らないんですか?結構有名なんですけど……」
「え?全然知らない」
「彼女が使う属性は――――」
「ああー!待って!当てる!当てるから!」
簡単に答えを教えてもらうんじゃなくて、どうせなら当てに行きたい。カレナはなんか雰囲気的に風っぽい気がする。というか、炎と水と土は彼女の雰囲気に合ってない。
そして、俺が導き出した結論は―――――
「ズバリ風だ!」
「正解です」
「いや当たるんかい!」
勘だったから、そこは外れるところだと思っていたのに、なんのまぐれか当たってしまった。
「まあ、とりあえず観戦しましょう。答え合わせはそれからです」
「え?」
答え合わせはそれから、とミネンは言った。しかし、その言葉の意味を確認する暇もなく、カレナの試合は始まってしまったようだ。
試合開始直後、カレナは猛スピードで相手との距離を詰めに行った。遠くから見ていても分かる、不自然な加速の仕方だった。
「風魔法か」
カレナのスピードに対して、足に入っている力はあまり強くなさそうだった。ゆえに、あの加速は間違いなく風魔法だろう。詠唱は開幕と同時に行ったようだった。
カレナは攻めの姿勢を崩さないまま、剣を主体に戦っていく。風に乗ったカレナのスピードがあれば、魔法主体で戦うよりも剣を使った方が強い。相手に詠唱の隙も与えさせない。
だが、相手の候補生も中々の剣技だ。風に乗ったカレナの猛攻をなんとか凌いでいる。
そして相手はカレナの剣のリズムを読んだのか、攻撃が緩む一瞬の隙を間を狙って詠唱を行い、小さな炎の槍をいくつか生成し、それをカレナに向けて放った。
「マジかよ……!」
だがその瞬間、カレナの回りにいくつもの水の槍が生成され、炎の槍とぶつかり合い、そのことごとくを打ち消して行った。水の槍を生成したのはカレナだった。
「2属性使えるのか……!」
「驚くのはまだ早いですよ」
ミネンがそう呟いた瞬間、再びカレナは詠唱を行い、今度は炎の槍を生成した。
「3属性……」
返しの詠唱が間に合わないと踏んだのか、相手の候補生は後退し、態勢を整えようとした。だが、その願いは叶わなかった。
「4…属…性……?」
後退する相手の足を、土で作られた手が掴んだからだ。
後退しているところを土の手に掴まれた影響で、相手の候補生はよろめき、地面に尻をついた。
そして、その一瞬の隙をカレナは逃さず、生成していた炎の槍を胸に撃ち込み、止めを刺した。
瞬間、結界は破壊され勝負がついた。結果は言うまでもなく、カレナの圧勝だった。
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