第9話 挑戦者
『グレース・アイシクルロードと戦いたいだと……!?』
『いくらミネン隊長が指導した騎候生と言っても無謀なのでは……?』
俺が放った一言に、付近にいる騎士団員とその弟子たちをザワつかせた。カレナの方に視線をやると、彼女も少し動揺している様子だった。
「あなた、中々面白いことを言うのね」
周囲の人間のザワつきとは対照的に、担当教員は落ち着いた様子で俺に尋ねてきた。彼女の視線は真っ直ぐ俺に向けられていて、なんだか品定めされているような気がした。
「残念だけど、私がここであなたの条件を呑むのは入学試験のルール的にはアウトなのよ」
「え?」
「それに、あなた1人の対戦希望を取り入れようとすれば、ここにいる人たちの意見も聞かなくちゃいけなくなるしね」
「まあ、それもそうですよね……」
勝ちたいという思いが先行したけれど、考えてみれば当然のことである。ここは国が運営する魔導学園だ。自分の意見を押し通せる場所じゃなかった。
「他に質問は無さそうね……。というわけで、皆さんの希望を取り入れて対戦表を作りたいと思いまーーーす!!」
「「「えええ~~!!??」」」
その場にいる大半の人間が、声を上げて驚いた。ルール的にアウトなことをこの先生はやろうとしているのだから。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!頼んだ俺が言うのもアレですけど横暴すぎません!?」
「何言ってるの?生徒の願いを聞き入れるのも、教員の立派な仕事なのよ。……それに毎年同じじゃつまんないし」
最後に早口で何か言ったなこの人。絶対そっちが本音じゃん。
「ていうか、俺たちまだ生徒じゃな―――――」
「それでは、対戦希望のある方は口頭でどうぞ!全部風を流して聞き取りますので!」
先生は俺の言葉を遮るように声を発した。それと同時に、騎士団候補生たちの周囲に風が吹いた。決して強くない、服の裾が少しだけ揺れるほどの強さの風。先生は集中するためか目を閉じた。
(他人の声も、風に乗せられるのか……!)
適応力が高いのか、候補生は皆、バラバラに声を発した。まるで指揮を投げ出された集団合唱のようだ。こんなバラバラな声を、果たして先生は聞き分けられているのだろうか。
風が吹き、候補生たちが声を発してから数秒、考えがまとまったのか先生は目を開いた。
「ふむ……なるほど……―――対戦表が決まりました。これから名前を呼ばれる4名は、対戦の準備をしてください。前者2人は準備を終えたらすぐに対戦、後者2人は控え室へ移動してください」
ほんの数秒で、頭の中に対戦表を作るだなんて、やっていることが人間技じゃない。今年の受験者は確か、50人近くいたはずだ。
「なお、控え室に入れるのは呼ばれた騎士団候補生とその推薦者のみですので、それ以外の方は闘技場の観覧席でご観戦ください」
先生は早速、受験者の名前を呼び始めた。俺が質問の為に手を上げて数10秒のことで、頭の理解が追いつかない。試験者の中には、動揺を隠せない者も少なくない。
ただ唯一理解できるのは、ようやくと言うべきかいきなりと言うべきか、王都魔導学園の入学試験が、始まりを迎えたということだ。
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