第7話 教員の実力
試験が始まる時間が近づいてきたからか、受付のロビーにだんだんと人が集まって来ていた。騎士団候補生、及びその推薦者たちがぞろぞろと湧いて出てくる。
その中にはカレナやグレースの姿もあった。カレナは背の高い金髪のイケメンさんと横を歩いている。おそらくカレナが話していたお兄さんなのだろう。心なしか顔つきも似ているし、意外と若い。
(グレースは……あれ?1人だ)
騎士団候補生の隣には必ず推薦者が立っているというのに、グレースの横には誰も歩いていなかった。まあ、父親は騎士団の団長だし、今日は来れなかったのかもしれない。
それにしても、顔見知りの騎士団員が全く見当たらない。誰に目を向けてもいまいちピンと来ない。それにしても―――
「グレン、あまりジロジロしていると悪目立ちしますよ」
「よく言うよ。目立ってるのはそっちだろ?」
―――先ほどから、なぜかミネンの方に視線が集まっている。俺がいくら他の騎士団員を見ていても、誰一人として視線が重なることはなかった。
「団長が居れば、こんなに目立たなくて済んだはずなんですけどね」
「あー、そっか」
そういえば、ミネンは王国騎士団の炎の3番隊の隊長だった。今日は正装で来ていて階級も丸わかりだし、目立っていてもしょうがないだろう。
「て、そのドリフさんは仕事?」
グレースが1人で歩いていることが気になったので、直球で聞くことにした。ミネンだったらドリフさんの予定を知っているかもしれない。
「確かに見当たりませんね……でもまあ、多分来てますよ。入学試験に来るとは聞いてますし。グレースのこと大好きですからね、あの人」
「そんなイメージ無いけどな……」
でもまあ、来ているようならそれでいい。後で会ったら挨拶でもしておこう。
なんてことを考えていたら、受付の方から女性が出てきた。緑色のロングヘアーに、鍔の広い三角帽子を被り女性用の魔導ローブを羽織っている、いかにも魔法使いといった服装だ。
「騎士団候補生、そして騎士団員の皆様方々、大変長らくお待たせいたしました。これより試験会場へと案内させていただきます」
おそらく魔導学園の教員であろう彼女の声を聞いて、俺はある違和感に気づいた。
(何故だろう?距離の割には声が近い気がする……)
本来、ここにいる全員に指示を出すためには大きな声を出さなければならないはずなのだが、彼女の声量は驚くほど普通で、まるで近距離で対面して話しているような感覚だった。
「風魔法……」
ミネンがぽつりと呟いたその一言でピンと来た。
(なるほどな)
想像の域を出ないが、おそらく彼女は、風魔法に自身の声を乗せて、俺たちに聞こえるようにしているのだろう。
風に声を乗せるというだけでも離れ技だが、この場にいる全員に送り届けることができるなんて、はっきり言ってただ者じゃない。しかも無詠唱だ。
「私についてきてください」
彼女は案内のために、闘技場行きの通路へと歩き出した。それに続いて、その場に居た者たちが一斉に動き出す。やはり全員に滞りなく声を届けている。
(すごい……!これが王学教員の実力……!)
別に戦ったわけじゃないし、先ほどのグレースのように敵意を向けてきたわけでもない。だというのに、その魔法技術は圧倒的で、あの女性が相当な実力者であることを理解した。
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