第6話 6年前からの約束

 グレースが去ってしばらく後、ミネンと俺はロビーの椅子に座って話していた。



「それにしても、大見栄を張りましたね。グレースにあそこまで言う子なんて久しぶりに見ましたよ」



 ミネンは先ほどのやり取りを思い出したのか、くすりと微笑んだ。



「ミネンには、俺が大見栄張ってるように見えたの?」



「ええ、まあ」



「……そっか」



 やはり、ミネンには隠せていなかったみたいだ。本当は宣戦布告するほど勝てる自信なんてないこと。



 さっきは頭に血が上ってついあんなことを口走ったが、はっきり言ってグレースに勝つための算段はついていない。



「そういえばミネンはさ、昔グレースの師匠だったの?ほら、さっきグレースがそれっぽいこと言ってたしさ」



 先ほどの会話で引っかかった、グレースとミネンの関係。グレースはミネンが自分を捨てて俺の師匠になったと言っていたし、少しだけ気になったのだ。



「……師匠というか、グレースの両親は2人とも忙しい立場の方たちだったので、休暇が入った時に、たまに面倒を見ていただけですよ」



「なるほど……」



 ミネン自身も、グレースとの関係ははっきりと認識していないようで、曖昧な答えが返ってきた。



「まあ、この辺の話はいいでしょう。それよりも、グレースに勝つための策を考えないと普通に負けて終わっちゃいますよ」 



「それもそうだな。とりあえずミネン、知ってる限りでいいからグレースがどんな魔法使うのか教えてくれよ」



 策を練るにはまず情報収集から。



 ミネンが俺に教えてくれた戦闘のいろはの1つだ。



「残念ながら、それは無理ですね」



「え?」



 返ってきたのは、俺が予想だにしなかった回答だった。



「グレースとの付き合いは長いですし色々知っていますが、それをグレンに教えてしまうのはフェアじゃないでしょう?」



「まあ、それは確かに……」



 ミネンが教えてくれない以上、誰から情報を得るべきだろうか。



「うーん……参ったな……」



 相手は王国騎士団長の娘だ。事前情報なしで戦うのは中々キツそうだし、なにか1つくらいは情報を仕入れておきたい。



「グレースの弱点なら、戦いの中で見つけていけばいいじゃないですか」



「え?」



「戦いの中で得る情報は、他人から聞くどんな情報よりも新鮮で正確ですからね」



 戦いの中で情報を得て、その場で策を見出だす。簡単に言ってくれるものだ。けどそれはきっと、俺ならできると信じてくれている証なのだろう。



 なら、俺はその信頼に応えたい。



 ミネンが今まで剣と魔法を教えてきてくれたのは、魔導学園に入学して卒業させるため。



 なんでそんな条件なのかは分からないし、深く聞いたことはないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る