第3話 才女のウワサ
あれから自己紹介をした後、道に迷っていたことをカレナに伝えると、試験会場まで案内してもらえることになった。本気で困っていたので正直ものすごく助かった。
あのまま森の中を訳もわからずさ迷っていたらどうなっていたことか、考えただけでゾッとする。
「ところで、カレナは誰の推薦を受けて騎候生になったんだ?王国騎士団なら顔見知りが多いからもしかしたら知ってる人かもしれない」
「多分聞いても分からないと思うけど……ルテイン・クレンツアインって知ってる?私のお兄ちゃんなんだけど」
「いや、聞いたことない名前だな……」
カレナの言った通り、全く聞き覚えのない名前だった。自分から話を振っておいてこれは少し情けないかもしれない。
「まあ知らなくても仕方ないよねー……お兄ちゃんは今期から騎士団に配属されたばっかりの新人騎士だから」
今期から騎士団に配属の新人。俺の知り合いの団員は揃ってベテランなので、新人については全く知らない。
「でも、騎士団候補生に推薦できるのは騎士団の個人序列100位以内の人間だけだったはずだろ?新人なのにカレナを推薦できるなんて相当すごいことじゃないか!」
王国騎士団には、騎士団序列というものが存在し、個人序列と部隊序列の2種類に分かれている。
自分の鍛えた子供を王学に騎士団候補生として推薦するには、前述した個人序列100位以内であることと、騎士団の人間が3年以上稽古をつけたという実績が必要である。
カレナのお兄さんが今期入団でカレナを推薦したとなれば、おそらく他に、3年以上カレナを鍛えた騎士団員がいるのだろう。
序列を上げるには日々の任務で華々しい成果を出したり、訓練の模擬戦でひたすら勝ち続けたりしなければならないそうだ。その他にもハードな審査条件をクリアする必要があると聞く。
今期入団の新人が、王国最高峰の実力者で溢れる騎士団内で個人序列100位以内を取るのは至難の技だ。話を聞くだけでカレナのお兄さんの規格外さと努力が伺える。
「ふふ、私のお兄ちゃんすごいでしょ?努力も欠かさないし、いつも真っ直ぐでかっこいいんだ」
カレナは兄のことを、まるで自分のことのように褒めちぎった。表情からもその称賛が心からのものであると分かる。彼女の兄妹愛の強さが伺えた。
「ところで、グレンくんは誰に推薦してもらったの?私の気配もすぐに察知してきたし、結構強いでしょ?私の知ってる人かなあ?」
「……俺が強いかどうかは置いといて、俺を育てた師匠は強いよ。ミネン・ブエルガンって言うんだけど知ってる?結構有名なんだけど」
「え!?ミネンさんって、炎の3番隊のリーダーだよね!?有名どころか、知らない人はいないレベルの人じゃん!」
「そんなに……?」
ミネンが強いことも、騎士団員に慕われていることも、世間からも度々記事にされていたことも知っていたが、まさかここまでいい反応をしてくれるとは思っていなかったので、弟子として正直鼻が高い。
カレナの言う通り、ミネンは騎士団の部隊序列3位である炎の3番隊を率いるリーダーである。個人序列は公にはされておらず、ミネンに聞いても教えてもらえなかったので知らないのだが。
「あ、知らない人はいないで思い出したけど、今日の入学試験には、あのグレース・アイシクルロードさんが来るんだよ!」
「グレース・アイシクルロード……?」
俺はカレナから今まで聞いたことのない名前を聞かされ、脳内に疑問符を浮かべた。
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