第2話 籠の鳥

僕は、何気に、彼女と仲が良かった。なぜなら、幼馴染だったからだ。


僕たちは、毎日、一緒に学校を登下校していた。


その時、彼女はいつも言っていた。


「私は、どうしたって、籠の鳥。何処にも羽ばたけはしないの…」


大金持ちの家に生まれ、幼い頃から英才教育を受けさせられ、恋愛は、生まれた時から、父親の知り合いの、超がつくほどの大金持ちの息子が許婚として、決まっていた為、なんの自由もなかった。


そして、その日、彼女は、今まで言った事の無い、セリフを零した。


「私は、恋愛さえ、まともに出来ない…。私は…鳴くことさえ、許されない…不自由で、可哀想な、籠の鳥。汀くん。貴方は、自由に生きてね…」


彼女の口から、“恋愛”と言う言葉が出たのは、初めてだった。それに、つい僕は反応してしまったんだ。…と思う…。


「馨ちゃん、…は…、逃げたりは…しないの?」


「…逃げる?」


僕は、軽率だと、無責任だと、そんな自覚、全く持たないで、そう彼女に告げた。


「…そうね…。それが出来たら…きっと楽ね…。私に、自由になれる勇気があれば、嫌なことを、嫌だと言える普通の女の子だったら、どんなに素敵かしら…。汀くんは…すきな人はいないの?」


突然、彼女が僕の内情に触れて来た。こんなことは、幼馴染をして18年、初めてだった。


それは、恋愛、と言う単語が、彼女の口から出たからだろう。


僕には、当然、すきな人がいた。誰しもが、予想できるだろう。そう。僕のすきな人は、物心ついた時から、変わらない。


栗花落馨、その人だ。


「僕には、叶わない恋だよ…」


「大丈夫よ。汀くんは、の男の子だもの。私のように、不自由じゃない。その羽根は、何処までも飛んでゆける、無限の可能性をもってるわ…。私は…、そうはいかない。今以上に勉強に力を入れさせられ、今以上に色々な習い事をさせられ、今以上に多面的な思考を要求される…。なのに…何処まで行っても、私の意志は、そこにない。私は、私なのに、私が私でいることを、決し許されない…。どうしてだろう…。どうして…私は…こんな風に生まれたのかな?」


そう言いながら、馨は涙を流した。


「馨ちゃん、ごめんね…僕、泣かせるつもりじゃ…」


「ううん。汀くんのせいじゃない。全部、私の運命…。変えられない…運命のせいよ…。ごめん、汀くん、少し、泣いてても良いかな?ちょっと、抱き締めてもらっても…良いかな…?」


そう言うと、彼女は、僕の肩におでこをのっけて、ぎゅっと、僕を抱き締めてた。僕は、心の震えを、押し込めるのに精いっぱいだった。それでも、彼女は、声を殺して泣いている。その彼女を、今、慰めることが出来るのは、僕しかいなかった。僕は、そっと、彼女の背中に腕を回した。





そして、その次の日だった。



彼女が、失踪したのは―――…。

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