ところどころおぼえてる
涼
第1話 失踪
「おかえり。
「ただいま。馨かおるちゃん」
「今、ご飯の支度してる。椅子に座ってて」
「ありがとう。明日は僕がやるよ」
「うん。汀くんの方がお料理、美味しいもんね」
「…でも、今日も、出来なかった…」
「明日はまた来るんだから…。慌てなくていいよ」
「…うん。そだね…」
僕の名前は、
彼女は、記憶喪失だ。
何故、そうなってしまったのか、彼女自身も分からない、と言う。
只、憶えているのは、自分の名前と、この家、そして、僕の存在。それだけは、忘れないと言う。
そして、もう一つ。
前世の記憶だ。
彼女は、前世で、愛し合っていた人がいたと言う。
それ以外は、何も、分からないのだ…。
だが、僕は、彼女が誰で、何処にいたのか、知っている。
彼女の名前は、
彼女は、明るく、正義感が強く、優しくて、誰からも信頼される、生徒からも、教師からも、一目置かれる、とても優秀な生徒だった。
その彼女が、ある日突然、失踪した。
その失踪騒ぎは、彼女の家族だけでなく、高校も巻き込んで、大騒ぎになり人望の厚かった彼女がもたらした影響と言うべきか、警察も、動いた。
しかし、1週間経っても、1か月経っても、そして、半年が過ぎても…、そして、とうとう1年が過ぎても、彼女の行方は分からず、警察の捜査はいったん、打ち切られた。
彼女の母親は、気が狂い、毎日泣き叫んでいたと言う。それほど、家でも彼女は良い娘だったのだろう。父親も、父親で、大きな会社の社長だっため、探偵を何人、何社と雇い、彼女の行方を追った。
それでも、彼女が、いなくなった日の足取りすら、辿ることが出来なかったと言う。自ら皆の前から消えたのか、誰かに誘拐されたのか、はたまた、もう、殺されてしまっているのか…。そんな噂、推測が、高校中飛び交っていた。
彼女の信者は多かった。何度も言うが、彼女は、すべてにおいて完璧だったからだ。美しく、秀才で、性格も良い。非の打ちどころのない、そんな彼女に憧れ、崇拝し、ファンクラブなどと言う言葉では足りない、集まりが学校中にうじゃうじゃ存在していた。
その信者たちの哀しみようも、半端なものではなかった。
「栗花落馨様…どうか…私たちの前にもう一度、そのお姿をお見せください…」
「栗花落馨様…どうか…ご無事な姿を、この目に映すことを叶えてください…」
祭壇のように、色とりどりの花で飾られた大きな彼女の写真を、校長の許しを得て、視聴覚室に大々的に置き、毎日のように、学校中の信者が、朝から、放課後まで、ひっきりなしに、訪れては、涙を流し、無事を祈った。
その彼女を、僕がどうして、見つけることが出来たのか…。それは、少し、ややこしい話になる―――…。
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