第3話

 カツ、カツ、カツ、と革靴の音が静寂に包まれた廊下に鳴り響く。

「アーキ!おっつかれー!」

「…ミーナか」

ぎゅ、とアキに抱きつくのはアキの同期・ミーナ。

勿論、本名では無い。

アキ、ミーナ達隊員の本名を知っているのはボスのみだ。

「新人ちゃん入るんでしょ?楽しみだね〜」

カシュッ、と音を立ててミーナは炭酸飲料をごくごくと飲む。

「虫歯になるぞ」

「大丈夫だ〜って!私、実験体だったんだし」

「…早くボスの元へ行くぞ」

「む!アキは面白みが無いな〜」

「俺にそんなの求めるな」

「待ってよアキー!」


 「ただいまー…」

「お帰り、ツユ」

「ただいまお母さん」

ツユは母に夕飯の手伝いをする、と申し出る。

「じゃあ味噌汁お願いね」

「はーい」

ザク、ザク、と長葱を切っていくツユ。

「今日はお母さん、奮発しちゃった」

「何買ったの〜?」

ツユは葱を切り終え豆腐を切り始める。

「百合達の好きなお肉買ってきたの」

「お肉?ふーん…味噌は冷蔵庫?」

「えぇ」

ふふ、と嬉しそうに微笑みながら野菜炒めを作る母。

ツユはそんな母を横目で見ながら味噌を溶いた。

ぐつぐつと鍋が煮立ち始め、すん、と匂いを嗅ぐツユ。

「お味噌汁出来たよー」

ツユが声を掛ければ、部屋の奥から出て来たのは…

「はーい!」

「ごはーん!」

「…」

上から順に、三女・まこと

長男・虎太郎。

次女・百合。

真と虎太郎は双子であり、同じ保育園に通う年中。

百合は中学三年生の受験生だ。見た目は三つ編みをしており、眼鏡を掛けている。然し、話し掛けづらい雰囲気を持っている。

「お姉ちゃんのお手伝いしてくれる人ー!」

「「はーい!」」

バッ、と手を挙げる真と虎太郎。

百合は長袖のカーディガンに隠れた腕を擦っていた。

「百合は食べる?」

「…要らない」

「お腹空いたら言ってね。今は夏だけど、暑くないの?」

「…暑くない」

ツユは何とか百合と会話をしようと試みるが、効果無しだ。

其の間にも真、虎太郎は味噌汁を啜りながらにこにこと喋っている。

「美味しいね!」

「ねー!」

「野菜炒め出来たよー!」

「「わーい!」」

「ツユも早く食べちゃいなさい。百合は勉強で忙しいから…ね?」

「…はーい…」

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