第9話

保健室に養護教諭はおらず、

詳しい病状はわからないまま、俺は宇津月をベットに運んだ。

「大丈夫そうか?」

「まぁ、体調も悪いけど、ううん。なんでもないや」

弱弱しく微笑む宇津月はなんだか今にも死にそうな病人に見えた。

「いや何かあるなら聞くけど、

 この際言ったほうが心配事もなくなるんじゃないか?」

「そうだなぁ、水島君は私がと言ったら

困るでしょう?」

何を言い始めるんだこいつは。

考えていると

「そうだよね、やっぱりそう、なっちゃうよね。ごめん」

「何も謝る必要はないんじゃないのか?」

「でも、...。ごめんなさい。謝罪は撤回するわ」

だから謝らないでいいのに。

でもここで再度指摘するのは違うと思ったので口をつぐんだ。

「それで、話せそうか?」

「...また今度二人きりの時にお話するわ」

「そうか。わかった」

「「...」」

き、気まずい。

黙って空を見ていると

「おー宇津月に、...まぁ名前は後で聞くとして、大丈夫そうか?」

養護教諭が返ってきた。

「...頭と太腿ふとももが痛いです」

一瞬取り乱した様子だったが、冷静に業務をこなしていった。


「まぁ、これで大丈夫だろう。30分ほど冷やしたら湿布とかはるから。

 んで、君の名は?」

ふざけてんのか真面目なのかわからないが

「水島智樹です」

「そうか。君が彼女を運んだのかい?」

「ええ、まぁ」

ありきたりな質疑をしていると

「あら、先生。ここにいらして」

....。

なんかぞわぞわするというかお嬢様というか、なんか違和感を覚える言葉遣いだ。

「胡羽ちゃん!」

沙二が反応する。

なんだ、知り合いか。と思っていると、

「あなた、沙二のなんなんですの?」

この口調は苦手だし嫌いだ。

「彼氏ですけど...」

ぽけーとする胡羽。

我に返ったのか、

「そそそういえばあなたのお名前を伺っていませんでしたわね。

 お名前はなんですの?」

気持ち悪い。口調さえ正せば美人なんだろうけど、なぁ...。

「水島智樹です」

さっきもしたなこの会話

「ありがとうございます。

 では、あなた様...智樹様には今から私と付き合ってもらいます」

「は?」「え?」素っ頓狂な声が出る。

何をしたいのかまったくもって理解しがたい。

「ちょっと待って俺は今宇津月の彼氏であってフリーじゃないんだけど?」

「ええ、そうですわね」

「それよりも一刻も早くその口調を俺らみたいに崩してくれ。頭が狂いそうだ」

「あっそ。んでなんか文句ある?」

二重人格化と思った。呆気にとられる。というか意味わからん。

「宇津月は何かある?」

「...なんで彼と付き合おうとしてるわけ?

 別にあなたは彼以外でもいい人を捕まえられるでしょう?」

若干怒り気味の様子。体調が悪いのではと思ったが

肌が赤いのを見ると強がりらしい。

「ええ、そうよ。男なんて所詮ATM。捕まえては捨てる。

 そういうでしょう?」

ダメだこいつ。人間として終わっているというかなんというか、

それを俺の前で言うか。アホなんかな、...。


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