第121話 荒ぶる強力編集 主に不快指数的な面で
――袁煕
役者は揃った、とでも形容すべきだろうか。
賈詡・郭嘉・郭図という中華的三段活用を取りそろえ、目の前の鳳凰と相対している。さぞや熱烈な弁舌が展開されるのかと思うと、胸が熱くなりそうだ。
そんな水面に刃を走らせるような緊張感だが、俺のやることは決まってる。
援護射撃はいくらでもするぞ。縁の下の力持ちこそが袁煕のド定番だしな。
じゃあ早速行ってみようか。
強力編集――起動!
ジャーンジャーン!
うむ。相変わらずの騒音っぷりだね。毎回微妙に音の高さが違う気がするが、まさか俺の脳内が異常をきたしてるんじゃないだろうな。
▷武将編集 起動
▷武将選択 承認
▷龐統士元 確認
え、なんかシステマチックになってるんだけど。
なんだこの蛍光グリーンに縁どりされた文字列は。
▷実績達成 確認
待って。俺の知らない世界で、俺の知らない実績を解除しないで。
▷蜀滅亡 の実績を解除いたしました。
以後パワーアップセットに音声が追加されます。
滅亡早えよ。いや、まあそりゃそうなんだけどさ。劉備は実際に散ったし、三兄弟も今や無いものになってしまった。
「おはようございますお兄ちゃん! 私は蜀漢滅亡の実績でアンロックされた、電子要請のツグミだよっ。これからはお兄ちゃんの言うこと、なーんでもツグミが面倒見てあげるからね!」
「お、おう……」
「殿、何か言ったッスか? 今ちょいと話が立て込んでましてね」
「いや、気にしないでくれ……」
「そッスか」
頭いてぇ。
この編集キット、俺の頭の中にVtuber系のガワを住み着かせやがった。
しかもコッテコテの妹設定で、金髪のロリっ子だよ。一部には需要があるのかもしれないが、今は乱世ぞ?
「今日もいーっぱいご奉仕するから、ちゃりんちゃりん投げ銭してね♪」
「ガキが……舐めやがって……」
己の欲望を隠そうともしないこの設定。南華老仙は一体どういう気持ちで、このプログラムを作ったんだろうか。親の前で音読してみろハゲ。
まあいい、それはそれでおいておこう。じゃないと先に進めない。
俺はうっかり声が暴発しないように、そっと部屋の隅へと移動した。
マオが薙刀を手に護衛してくれているが、その心配りが今はちょっと辛い。
「龐統士元のステータス、そして賈詡と郭嘉のものだ」
「わっかりました! ツグミはなーんでも見えちゃうんですよ!」
「いつか消す。必ず消す」
キンキンのアニメ声で叫ばれては、俺の脳が融解してしまう。
共存することなど不可能に近いと思われる。マジでどうすんだよ、これ。
◆張燕軍
姓:龐 ほう
名:統 とう
字:士元 しげん
年齢:20
相性:75
武力:35
統率:82
知力:97
政治:85
魅力:47
得意兵科:歩兵
得意兵法:連弩 攻城 火計 言毒
固有戦法:鳳凰の巣 連環 看破 兵器開発
固有性癖:
負の属性:軽率
親愛武将:張燕 劉備(没) 諸葛亮 張飛 徐庶 周瑜 陸駿
犬猿武将:郭図 張任
〇固有兵法『鳳凰の巣』:異民族を懐柔し、動員兵力を増やす。
〇固有兵法『連環』:敵城塞及びそれに類するものに、大規模火計を成功させる。
◇袁煕軍
姓:賈 か
名:詡 く
字:文和 ぶんわ
年齢:52
相性:20
武力:48→51
統率:87→88
知力:97→98
政治:85→87
魅力:53→60
得意兵科:歩兵
得意兵法:火計 誘引 罠設置 看破
固有戦法:虚誘掩殺
固有性癖:
親愛武将:張繍 袁煕
犬猿武将:曹丕 郭図
特殊条項:脳破壊済み
――
姓:郭 かく
名:図 と
字:公則 こうそく
年齢:42
相性:111
武力:38→12(反動により)
統率:55→26(反動により)
知力:82→3(反動により)(裏目:実測値97)
政治:-3 裏目:実測値103
魅力:7→2(反動により)
得意兵科:歩兵
得意兵法:火計 攻城 言毒 一騎
固有戦法:全言裏目 奇跡農業 強奪 変身New!
固有性癖:
親愛武将:袁煕 農民 張飛New!
犬猿武将:審配 沮授 田豊 逢紀 王脩 張郃 高覧 甄姫 明兎 郭嘉
顔良 文醜 龐統New! 趙雲New! 張遼New! 呂玲綺New!
――
姓:郭 かく
名:嘉 か
字:奉孝 ほうこう
年齢:27
相性:25
武力:15→17
統率:62→73
知力:98→99
政治:84→88
魅力:80→85
得意兵科:歩兵 弓兵
得意兵法:奇襲 神速行軍 攻城New! 外交New!
固有戦法:神算鬼謀 全言的得 技術革新
固有性癖:
親愛武将:袁煕 荀彧 荀攸 郭奕
犬猿武将:郭図
――
相も変わらずぶっ飛んでんな、この能力。
というか郭図がもう人間味を出してない気がする。ありとあらゆる実験台になったせいか、反動でやたら弱々しくなってしまった。
しかし……流石は龐統と言うべきか。
デバフは一つだけで、その他はかなりの強者振りを示している。袁家譜代の臣には信頼を置いているが、流石に今回ばかりは相手が悪かった。
「お兄ちゃん! そんなしょぼくれたツラしてたら、メッ! だよ!」
「やかましいわ!」
「殿、今大事なトコなんすから、静かに」
「袁顕奕殿、そのような端で何をなされているのですかな。ははぁん、この鳳雛の目を盗み、女中と良いことをなさるおつもりか」
ええい、強力編集は開けておかなくては、いざというときに使えない。さりとて放置しておけば、頭の中で無限に妹と自負する亡霊が語りかけてきやがる。
なんだよ、この極限状態。
「大変失礼した。俺も色々と心を落ちつけたくてな。噂は伝え聞いているだろうが、この通り小心者なのだ。そこは大目に見てくれまいか」
「……自分で自分を小心者と言う人物は、えてして羊の皮を被っている輩が多い。なるほどなるほど。この鳳雛めに警告したということか。これはしたり」
何かうむうむと頷かれてしまったのだが、マズっただろうか。
今更ながら、龐統ってまだ二十歳なのね。どう見ても三十路近くのチンピラにしか見えないんだが……。
まあ、人の容貌で能力を判断するのは危険ということを、俺は嫌というほど知っている。油断だけはするまい。
「もういいッスかね。んで、鳳雛サン。この邯鄲はいつになったら袁家にお返しいただけるんでしょうかね」
「然り。賈文和がここに来たからには、貴殿のたくらみは潰えたと知るがいい」
「その通りですぞ!」
約一名ほど話を聞いてなかった軍師がいるね。
悪い子だよ、まったく。
「いやははは、邯鄲は実に住み心地がいいですなぁ。今まで袁尚殿が手塩にかけて育ててきただけはある。どこを探ってもお宝でいっぱいでしてな」
「それ、ウチの殿の前で言っちゃっていいんスか? 鳳雛さんよ、アンタ、このままだと帰れねーことになりますが、そこ分かってます?」
珍しく郭嘉が切れている。
いつも冷静沈着な彼にはそぐわない、真正面からの恫喝と要求だ。
「そうカッカしなさんな。なんだぁ、袁家は酒の一つも出ないのか。名家と聞いていたが、案外吝嗇なんだな」
「それは失礼した。しかし俺の方針で、議論の場では酒は飲まないよう徹底しているのです。当家からは自慢の茶を淹れさせていただきましたので、ご賞味ください」
「へぇ。なるほど、そいつは上品な家訓だねぇ。面白みも人生には必要だぞ」
「心しておきますよ。で、いつ本題を切り出されるおつもりか。俺は弱卒なれど、割と忙しい身でして」
郭嘉は俺に同調し、ひたすらに邯鄲の件を責め立てる。同時に鳳雛の意図を探ろうと、話の続きを催促するのであった。
「まあまあ、考えてみれば戦につぐ戦で、双方心身共に疲れていることでしょう。殿、ここはこの賈文和が接待いたします故……」
「何が接待ッスか。アンタ、わーざわざウチの殿が拾ってやったってこと、忘れてねーッスよね? 呑気に茶なんかしばいてる場合じゃねえっつの。今にも張燕は軍備を整えて鄴に迫ってるかもしれんってのに」
「落ち着きなされ奉孝殿。敵も頭脳を使者に立て、こうして我らの間を修復したいと思っているのだ。名家に仕える者として、ここは意気を汲んでやるべきと思うが」
「話にならねーッス。文和サンよ、あんた見損なってたぜ」
「自惚れるな若造。勢力には攻め時と和議を結ぶときがある。今がどちらかわからんようでは、この先貴様の運命は透けて見えるというものぞ」
くそ、どうしてこうなった。
普段なら議論が白熱することはあっても、今みたいに剣を抜き放ちそうになる展開なんてなかった。
今日の郭嘉は何かがおかしい。
強力編集の画面を見ると、郭嘉の画面に警告マークが出ていた。
「お兄ちゃん! 郭嘉君のステータスをチェックしてみてね! ツグミとの約束だから、破ったらぷんぷんですよ!」
俺の鼓膜が破れそうなんだよ、小娘。まあいい、とにかくチェックだ。
さっきはおかしいところなんて特になかったんだが……一体何が起きているんだ。
途端に鳴り響くアラート音に度肝を抜かれる。
画面が赤く点滅し、郭嘉のステータスが変化していく。
「これ……は……!」
そこには、俺が欲しかった情報と、郭嘉の態度の全てが書かれていた。
そしてこうも書かれている。
◇イベント:落鳳が発生しました。
各軍師と協力し、邯鄲の町を取り戻しましょう。
報酬:龐統の加入 張燕の降伏 戎狄の服従
失敗:鄴の陥落
ぶっこんできてくれるぜ、強力編集サンよ。
これは是が非でも成功させねばなるまい。
郭嘉たちは今必死に計を編んでいる。俺は全力でそれに乗っかってやろうか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます