第97話 ダウンロードコンテンツは外法である
――袁煕
この強力編集は俺の弱みだ。
だが、個人的な思いだけで多くの将兵を危険にさらすわけにはいかない。
賈詡の特記事項に一つだけ、書き足しておこう。
『兵糧庫誘引の計が成立時、袁家への義理・忠誠度が上限値で固定』
お値段、金七万なり。
割とガッツリもっていかれたが、まだまだ保有する金銭はある。
いっそのことゲーム感覚で物事をイジると、そう割り切って考えられるならばまだ救いがあったかもしれん。
けど、この世界は編集すると予期せぬバタフライエフェクトが発生するんだよね。
能力値を閲覧するだけ程度なら特に問題はない。俺もつい癖でステータスチェックしてるし。
南華老仙の組んだであろうこのプログラムは欠陥品っぽい。
恐らくは俺のような人物を漁っては、実験しているのかもしれないな。
「殿、いかがされた?」
「賈文和殿、その、体調等に異常はないかな? ず、随分疲労していると思って」
「……お心遣い恐縮でござる。何やら殿とは『妙な親近感』を感じいります。不思議な感覚ですが、きっと悪いものではないのでしょう」
「ご協力くださるなら、嬉しい限りですよ」
賈詡の双眸に燃えていた青い炎。それはおそらく曹家の旗を焼くべき焦熱だ。
モチベーションを維持しつつ、どうにか賈詡の才を活かしたい。
さらに編集・on!
見てみたかったんだよな、『ダウンロードコンテンツ』ってやつをょぅ……。
アンロックするのに金がさらに三万ほど吹き飛んだが、まだ備蓄はあるぞ。
劉備に数百万突っ込んだことを考えれば、まだまだセーフ。
『ジャーン! ジャーン! 新機能が解放されました』
安定のクッソうるせえ銅鑼の音も、今は心なしか風情があるように思える。
『新機能1:武将能力値限界突破』
そう来たか。これはつまりアレか。呂布の武力100とかそういうのを、120まで伸ばせるとかですかね。
いいのか、それ。世界観壊れるぞ。
『新機能2:アイテム作成』
……マジっすか。
方天戟とか青龍偃月刀とかのパチもんを自作できるってことかね。
孟徳新書とか兵法二十四編とか、そういうのもパク……オマージュ可能なのだろうか。未来に生きてるな、このシステム。
まあ、使いどころさんとしては、武将の能力底上げだったり、忠誠度向上だったりとかその辺だろうね。まだ良心的で常識的……なのかな。
『新機能3:【試運転中】武将移動』
おい。
そういう時空系やめーや。
え、これちょっと洒落にならんでしょ。極端なことを言えば、北平にいる田豫を、南蛮にまで一気に飛ばせるってことっすか。
もう原理とかロジックとか考えると沼るから、そういうのはいい。
南華老仙がこの世界を箱庭ゲーだと思っているという、悪意的なものは感じた。
眩暈がする。
説明文を読めば読むほど、頭壊れそうになるわ。
1:武将の能力値を現在の最大値100から255まで設定できます。
上限突破には編集者に対する忠誠度によって変化しますので、ご注意下さい。
数値を1上げるためには、金五千を必要とします。
「ボリすぎだろ、この価格設定。いや、まああながちそうとも言えんか。呂布の倍以上の武を持つ将とか、地上最強のオーガさんに匹敵するだろうしな」
2:編集者が所属する勢力の技術力に比例して、製造できるアイテムが増えます。
ふぉふぉふぉ。これを読んでるお主、まさか刀や書物の複製なんぞの肝っ玉小さ
いことを考えているんじゃなかろうな? 技術が上がれば『なんでも』できるん
じゃぞ。ただし時価じゃがのぅ。
「説明文で俺に語りかけてくるなし。え、これ相当数ヤベーコンテンツじゃねえの。時価とかいう曖昧な設定が気になるが、河北の生活水準や軍事基盤を一気に改善できるかもしれん」
3:武将移動は現在開発中です。
移動には一律で金十万を消費します。なお、移動中にキャラロストした場合、ナ
ンカシステムズは関与いたしません。よろしくご了承ください。
謝謝。
「シェイシェイじゃねえよ。最後だけちょっと中国人感出さんでもいいっつの。ってかこれ未知の原理で空間移動するっていうニュアンスだろうから、当然危険性はつきものなのか。免責事項にもなってない文面とか、マジでやる気あんのか」
整理しよう。
ダウンロードコンテンツはめっさ金がかかる。
相応に便利ではあるのだが、リビドーを発散してしまうと速攻で極貧になるだろう。なので、使いどころを間違えないことだ。
そしてシステムが不安定であること。最悪不可思議な事象によって武将が消滅するケースも想定できる。
「どっからダウンロードしたか知らんが、狂ってるアイディア、よく湧いてくるよな……」
「殿、お身体は大丈夫ですかな。顔色が悪うございますぞ」
「許先生、ありがとう。大丈夫だ。それよりも賈文和殿の策、大枠において採用しようと思うんだが、どうかな」
「ククク、某もこの手の策謀は大の好物でございます。曹家の小倅には袁家の威光を存分に叩き込む必要があるかと」
よし、では曹操を誘い込む作戦を発動しよう。
現在白馬港は空城の計を行っている。中には可燃物を満載しており、上陸して敵が充満したところを一気に燃やす予定だ。
これで大分兵を削れるだろう。
まあここまで押し込んでくるのであれば、それはそれで大問題だが、備えだけはしておかねばならんよね。
延津に関しては少し朗報があった。
進軍中だった総大将代理の曹丕が、延津を離れて陳留に軍を返したそうだ。
楽進が討たれたのが応えたのか、それとも呂姫・張遼が寝返ったのが原因か。
まあ、延津には既に趙雲を向かわせ、制圧する準備を行っている。
曹操軍は濮陽を放棄し、そのまま陳留を本拠にして官渡に出るとの予見だ。
この城をぱっと捨てる判断が早い。兵力分散の愚を知ったのか、今後は正面衝突を繰り返すかもしれない。持久戦になれば袁家の財力と物量、そして兵力が勝つだろう。
さて、延津より南にある鳥巣。
史実の袁紹パパンの予定では、ここに対曹操軍の食糧庫を建築する手はずであったという。
今世も同じく、淳于瓊と高覧が設営に向かっており、恐らく多くの糧秣が運び込まれる算段だろう。濮陽・鄴・平原とも近いので、場所同士で有機的な連携が取れるといいね。
偽装降伏の結果としては、李典・楽進の戦死。そして于禁の捕縛という結果につながった。まあ、一部将兵と軍団がイっちゃってるからね。くわばらくわばら。
十面埋伏(笑)とかいう兵力分散も各個撃破することができた。
来るのが分かれば、格好の的なんですよね。
程昱・荀攸のコンビも強力だが、未来を知る身として少々アドバンテージがあったんだ。すまんね。
物見の報告によれば、敵は予定通り官渡港に兵を集めているらしい。
そこから再上陸を企図してくるのは明白だろう。
白馬は燃やす。延津は守る。そして本命の高唐港からの主攻につなげるのだ。
賈詡の策をここに混ぜ込むと、次のようになる。
鳥巣に兵糧庫を築き、糧秣を運ぶ。そこまでは規定路線だ。
だが、そこからさらに物資を移動させ、兵を反転させる。そして再び延津へ。
『鳥巣の兵糧庫はダミー。本命は延津に備蓄』
この作戦でいくぞ。
だってさ、しょうがないよ。
鳥巣って、陳留の圏内だし。
なんでこう、最前線付近に急所を作りたがるのだろうか。利便性第一と言われれば一理あると頷くしかないが、こんなん襲ってくれと言ってるようなもんよな。
前線を押し上げるためには補給が早い方がいい。それは分かる。
けど、どう考えても持久戦に持ち込めば袁家は勝つる。
さて、そろそろ見逃していた内部の膿を出すとしよう。
なあ、公孫続。君が色々手引きしてたり、内部情報流してるの、許攸がぜーんぶ教えてくれたよ。
賈詡の策に華を添えるのは、今世では許攸の裏切りに非ず。
公孫の末裔を信じて、偽の食糧庫を狙ってもらおう。
南部における作戦の大枠は決まった。
細部に関しては前線の武将と後方の軍師間で詰める必要があるが、圧倒的な物量差を活かして曹操軍に奇手をとらせて潰す方向性で行く。
「――伝令! 火急の報でございます!」
袁尚、敗れる。
邯鄲は陥落し、鄴へと撤退。
その凶報を聞くまでは、俺は勝利を確信していたんだ。
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