196年 賊徒討伐編 袁煕部隊出陣 VS黒山賊
第7話 袁煕、軍率いるってよ
頭がフットーしそうだよぅっ!
冗談ではなく、マジで毎日大量の竹簡と格闘している。よくもまあ、こんなにジャラジャラした巻物を使っていたもんだ。昔の人たちはそれでも字を残すことに意義を感じていたのだろう。頭が下がる思いがするが、肩こりも酷い。
「
「ありがとうマオ。すぐに行くのでお茶をお出ししておいてほしい。よし、孫氏の兵法、火攻編はこれで終わり……と。暗記は出来てないが、言わんとすることは分かった気がする」
沮授先生が課してきたハードルは高いが、一端の将軍はこれぐらい暗唱して然るべきなんだろう。古代中国恐るべしだ。
「さて、ボロカスに叩きのめされてもいいように、服を兵卒のものに変えて、と」
令和を生きる人々は、呂曠・呂翔なんぞ雑魚中の雑魚やんけって思うことだろう。だが、実際に戦ってみると恐ろしく強い。流石に袁家で部隊を率いるだけはある。
「っしゃ! 今日こそは一本取ってやるぞ!」
俺は一人部屋で咆哮し、訓練用の
――
松の木が綺麗に切りそろえてあり、詫び寂びを感じる朽ちた岩の転がる庭園にて、両将と合流する。
軍務で忙しい中、主家の我儘に付き合ってくれて申し訳ない限りだが、俺も死ぬわけにはいかない。ここは手を引っ張ってもらってでも強くならねばならん。
「呂将軍、遅くなって申し訳ない」
庭園の一角に備えた席で喫茶をしている二人に声をかける。
「おお、若様。今日も気合が乗っておりますな!」
「すっかりお出しいただいた茶に酔いしれておりました。早速始めましょうぞ」
武人ってのはもう見るだけでやばい。座って何気なく茶を飲んでいるんだが、オーラというか殺気が漏れてて近寄りがたい。奇襲しても勝てないだろうという、野生の勘が働くほどに。
「では剣と盾の修行は私め、呂曠が承りますぞ」
「槍と騎乗はこの呂翔にお任せあれ」
「うむ、二人ともよろしく頼むぞ。自軍の兵卒だと思って遠慮なく鍛えてくれ」
「ハッ!」
重い訓練用の鉄剣を振るい、必死に呂曠と戦う。斬りかかれば防がれ、かといって守りに入れば力技で崩される。
盾で殴られ、剣を弾き飛ばされ、蹴りで悶絶する。
スパルタ教育をと頼んだが、流石殺し合いをしてる人たちの訓練は、一味違うわ。
一つ目はまだ実績が足りず、アンロックされてないこと。
二つ目は編集するための資本がない。
つまりが『金ねンだわ』状態である。
パパンにねだろうとも思ったが、そこは名門の当主。間抜けな発言をしたらぶった斬られる気がしてならなかったのだ。
三つ目は技術の問題だ。
武力値を上げたところで、俺は剣・槍・弓・馬などの扱い方を知らない。
すなわち、腕力が強いだけの野生児になってしまう可能性が高いということだ。
素手で敵を無双していくのもロマンの極みだが、一軍の指揮官がグラップラーってのも締まりが悪いと感じた次第である。
息を整え、次は呂翔と槍を交える。
この二人は曹操軍に寝返って、徐庶の罠にはまり、張飛や趙雲にワンパンされたっていうイメージが強いが、実は相当危険な橋を渡る男たちだ。
兄弟骨肉の争いで、激戦地に最後まで残り、衆寡敵せずやむなく降るというドラマティックな生き様をするのだ。
「はあ、はあ、はあ。流石に現役の将軍は強い。二人の足元にはまだ近寄れぬ」
肩で息を切る。
「若様も随分と武器の扱いが巧みになってきておりますぞ。技術を吸収する能力の高さ、流石に御館様のご子息であらせられます」
呂曠も呂翔も汗ひとつかいていない。こいつら化け物すぎる。
少なくとも戦場では彼ら並みに動けないと、生き延びることが出来んということか。
三人で木陰に入り、給水がてら談笑していると、顔を青くしたマオがすっ飛んできた。途中木の根に躓いてこけそうになったが、無駄に運動能力を発揮して、空中一回転を決めて着地した。
「け、顕奕様! 一大事でございますよっ! ご注進、ご注進ですよ!」
ぜーはーと息を荒げているマオは、手に一通の書状を携えていた。
「うむ。何か火急の要件でもあったのか。まさか御父上に何か?」
「い、いえ、ともかくこちらをお読みくださいませ!」
しわしわになった手紙を広げ、もうだいぶ慣れてきたぐにゃぐにゃの漢字を読む。
これは……!
「俺が……まさか! こうしてはおれん。両将軍には悪いが御父上から至急の呼び出しだ。日を改めて稽古をつけてくれ」
「承知いたしました若様」
「マオ、御父上の御座所に登る。すまんが礼服と冠の準備をしてくれ」
「超絶快速でご用意いたしますですよ!」
一旦自室に戻り、汗をぬぐって身を清める。
とうとうこの時が来たかと、俺は覚悟を決めた。
――
御座所を守る
「御父上にご挨拶申し上げます。お召しにより袁顕奕、御前に参りました」
「うむ。其方を呼んだのは他でもない。そろそろ袁家の男子として兵たちを指揮する役目を担ってもらおうと思ってな」
手紙にあった文字列に、『袁顕奕出陣要請』とあった。
当主直々の指名なので、相手が誰であっても逃げるわけにはいかなくなった。
「心配そうな顔をするな顕奕。其方の相手は小規模な賊徒よ。兵1000を預ける故、冀州南部の
「主命承りました。して相手の兵力はいかほどでございましょう」
「賊徒は3000ほどだ。なに、我が名族の誇る精兵の手にかかれば、一気呵成に踏みにじることが出来よう」
言ってることが郭図っぽいですが、父上、大丈夫ですか。
初戦で三倍の兵相手にヒャッハーしてこいとか、ちょっとゲーム脳すぎませんかね。正面切って戦ったら9割負けますよ。
「なに、其方一人に重責を負わせるものではない。初陣故、十分な補佐をつけよう」
「格別のご配慮、真に感謝いたします」
「軍師に
「名高き高将軍と轡を並べられることを誇りに思います。して出陣の日取りなどは私が差配してもよろしいのでしょうか」
流石に心の準備が要るわ。高覧とも交流を持っておきたいしな。
「明後日である」
「は?」
「出陣は明後日、未明にこの
えええええええええっ。
早いどころじゃねえよ。将軍どころか兵士の顔もわかりゃしない。どういう仕組みで兵を動かせばいいのか、まだ手探りなんだぞ。
「出兵に伴い、顕奕には金1000と兵糧を十分に遣わす。輜重隊の手配は別の将に割り当てる故、後顧の憂い無く武を誇ってくるがよい」
「お心遣い、感激の至りでございます。それでは袁顕奕、出陣の準備を致します」
「うむ。行くがよい。吉報を待っておるぞ」
拱手を一つ組み、袁紹の前から辞す。
廊下に出た俺は、人目が無いことを確認して頭を掻きむしる。
ちくしょうめっ!!!
どうしてこうなった!
計画がアバウトすぎんだろ!
大上段に構えて、うむ、行け、だけで兵が勝てるかボケが!
いかん、こうしてはいられん。
逆神・郭図と高覧を呼び、敵の分析をせねば。
俺は俄かに忙しくなった自分の身に、確かに乱世の空気を感じていた。
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