第3話

 一週間が経ち、迎えたホームルーム。

 上地さんの発案した『執事メイド喫茶』は思ったよりも反響が大きかった。残り票のほとんどが『執事メイド喫茶』へと入り、無事可決された。


 そうと決まれば、次は役割分担だ。事前に上地さんがまとめてくれた『役割表』を基に決める。役割は以下の5つとなっていた。


ーーーーーーーーー


・管理係(4人)

 マネージャーのようなもの。スケジュールの計画・費用の計算・広告の作成を行う。

 各々の役割の進捗情報を逐次確認し、スケジュールに沿っているかどうかの確認を行う。もし、遅れているようであれば、人員の補充を行う。

 還元率は一人当たり5%


・服飾係(5人)

 執事、メイドが着る衣装の作成を行う。デザインから検品まで一連の流れを行う。

 還元率は一人当たり4%


・調理係(5人)

 お店に出す料理を決める。メニュー及び調理方法を作成。手ごろなものは手順を作成し、誰でも行えるようにする。メニューの料金の設定は『管理係』が費用を鑑みて決める。

 還元率は一人当たり4%


・装飾・小物係(10人)

 部屋の設計、部屋を飾るための装飾の作成、メニュー表などの小物の作成を行う。

 還元率は一人当たり2%。

 

・執事・メイド係(男3人・女3人)

 当日接客を行う。特別準備するものはないが、『チェキ』にメッセージ・サインを書く必要があるので、事前にそれらは考える必要がある。

 還元率は一人当たり3.3%


ーーーーーーーーー


 資料に目を通す限り、役割・人員に関して特に気になる点はなさそうだ。一番気になることは。


「姫薙さん、役割に書いてある『還元率』って何かな?」


 一人の女子生徒が質問をする。

 僕も思っていたことだが、この還元率が何を意味するのか気になっていた。


「えーっと、上地さん説明お願いしてもいい?」

「わかったわ。還元率は利益が出た場合に、全体の利益の何%が自分の取り分になるのかを示すものよ。例えば、利益が100万だった場合、自分が調理係であれば4万円を得ることができるわ。各々の係の取り分を20%比率にして計算しているから人数の多いところは取り分が少なくなっている」

「了解。ありがとう」


 みんな平等というわけではなく、あくまで仕事量に応じての報酬というわけか。各役割で仕事量を平等としているのは疑問だが、そこは上地さんの考えがあるだろう。


「役割分担って、話し合いで決める感じ?」


 今度は別の生徒が質問する。


「私の方で何人かの生徒は先に役割を決めさせてもらったわ。服飾や調理、接客に関しては才能が必要になってくる分野でもあるでしょうから。あとは本人の了承のみ。それ以降に関しては基本的に立候補生で行こうと思っているわ」

「承知。推薦って私たちの方でも行なっていい? もちろん、最初に上地さんの意見を聞いてからだけど」

「ええ、もちろん。私の知らない情報は大歓迎だわ。では、まずは私の方で決めてきた人選について発表させてもらうわね」


 上地さんはタブレットに視線を注ぎながら、彼女が決めた役割に該当する生徒を発表する。発表と同時に選定理由も一緒に告げることで他の生徒からの納得を得られるようにしていた。


 聞いている限り、ファッションデザインのコンテストで優秀賞をとったり、レシピコンクールの優秀賞をとった人物がその役割に抜擢されていた。


「ねえねえ、結友」


 上地さんの話を聞いていると、横から人愛が話をかけてくる。下にしゃがみ込み、内緒話でもするように手で口を隠して、僕だけに聞こえるようにしている。僕は耳を彼女へと近づけた。


「私ってここにいていいのかな?」

「そりゃ、クラス委員だからね。居ないと困るでしょ」

「でも、質問は全部上地さんが答えているし、仕切るのも上地さんになってきた今、私の立場って何かな?」

「まあ、いるだけの存在ってのも必要だよ」


 僕の言葉に人愛は疑問を浮かべたように首を傾ける。どうやら、腑に落ちなかったみたいだ。


「全員承認してくれたみたいで助かるわ」


 僕と人愛がやりとりをしている間に、上地さんの選んだ生徒は全員が承認したみたいだった。まあ、自分の才能が十分に発揮できる役割に入れさせてもらえたのだ。拒否するわけはないだろう。


「では、次は他の人の推薦を聞こうかしら?」


 上地さんの問いかけに誰も手をあげない。どうやら、彼女の情報はほとんどを網羅していたみたいだ。だが、それはあくまでコンテストで賞を取ると言った才能を称賛したものだけ。それだけでは、綺麗な役割分担とは言えない。


「上地さん、僕から一ついいかな?」

「何かしら? 八神くん」

「推薦ではないんだけど、人愛には調理と服飾、それから装飾・小物係には充てないでくれ」

「なっ!」


 いきなり、名指しされた人愛は驚愕して、スッと立ち上がる。


「どうしてかしら?」

「料理の腕は下手を越えて、死人を出すレベルなんだ。それにかなりの不器用だから、服や小物を作ると血塗られると思う」

「なるほど。下手だから役割から外せということね。盲点だったわ。上ばかり見てしまっていたみたいね。ありがとう」

「どういたしまして」

「どういたしましてじゃなーーーーい!」


 人愛は僕の襟を両手で掴み上げると力一杯上に引っ張り上げる。僕は半分首を締められた状態で持ち上げられた。


「何を勝手に暴露しているのよ。ただでさえ私の居場所がなかったのに。より絞るんじゃないわよ。私だって、料理とかやりたいのに」

「仕方がないだろ。流石に文化祭で死人を出すわけにはいかないんだから。それにまだ管理と執事メイドが残されている。この前のことを思い出そう。『決定回避の法則』。絞れた方が選びやすいんだよ」


 僕は必死に弁明するが、人愛は全く聞いてくれない。

 クラスのみんなはそんな僕たちのやりとりを見ながら微笑ましく笑っていた。

 人愛にはみんなに愛される不思議な力がある。それが彼女の魅力なのだが、本人は全く気付いていないみたいだ。

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