第2話 お題 やたらドラマチックなお婆さん

「お客様にだっていろいろな事情がありますからね……」


 天使の笑みを浮かべて上役・ビッグベンはこう告げた。

 例のモザイクで何も見えないがな。


「……大事なことは彼らの声に真摯に耳を傾けること」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。

 これはいつものことなので大体分かる。


「そして右から左に聞き流してください。同情は心を抉る鋭利な刃物、引きずり込まれると抜け出せなくなりますよ」


 同情。この商売の大敵は確かにそれだ。

 SARAの船室で待つケイのことを思い浮かべる。


 幼い命をあのような形で散らすわけにいかないと助手として引き取った。

 給料代わりにケイの残された家族への仕送りを続けているが、おかげで安月給のために家計は火の車、他の顧客にも同情していたら今度は私が目の前の悪魔の餌食になることだろう。


 同情は禁物だが、そう簡単に理屈通りにいくものではない。

 ある時は涙を浮かべ、ある時は袖に縋りつき、自分がいかに大変なのかを訴えてくる。 

 それは悪魔のささやきも似て、巧みに私の心の中に入り込み、ともすれば涙を誘ってくる。


「いいんです。そういうことなら返済を待ちましょう、ええ、大丈夫ですよ」


 なんて言いたくもなってくる。


 だがそんな時に限って、見てしまうのだ。

 にやりとした狡猾な笑みを。唇からチロリと除く蛇の舌先を。 


 特に今回は気を付けないといけない。

 今回のお客様はお婆さん。

 巧みな話術と迫真の演技で、いつの間にか自分の劇場に引きずりこむモンスター……もといお客様なのだ。

 手の内が分かっていてもなお、気づくと彼女に同情してしまいそうになる。


 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。


 →→→ 回答へ続く!

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