第18話 人形姫
昔々ある王国に大変美しいけれどお人形さんみたいに生気や覇気のない姫がおりました。
姫は何がしたいとか何が欲しいとか言うことはなく、ただただ人形のようなたたずまいを見せるだけでした。
王様と王妃様は心優しい方たちだったので、姫が大人しく人形のように政略結婚に従えばいいなどとは思っていなかったので、姫のことが心配でした。
姫が十五歳の誕生日を迎えた時、評判の心正しい良い魔女をお城に招き姫の望みをかなえて欲しいとお願いしましたが、姫にかなえて欲しい望みなど思い当りません。魔女は言いました。
「姫様、本当に何かかなえたい望みはございませんか?」
「はい、何もございません」
「姫様、よくお考え下さい。心の奥底に何か、かなえたいのぞみはございませんか?」
姫はしばらく考えた後、あることに気づき、魔女の耳元に何かを囁きました。
すると魔女は何かの薬のような粒を姫に渡し、姫はその薬をためらわずに飲みました。
周囲の人は魔女と姫の間で何が行われたのだろう? と思いながら成り行きを見守っていましたが、そのうち姫が
「この薬はいつ頃、効き目が表れるのですか?」と魔女に聞いた後の魔女の答えに驚嘆しました。魔女は答えて言いました。
「よくもためらわずにその薬を飲んだね。その薬は姫様の望みの死ぬ薬じゃありませんよ。安楽死にふさわしいのは何かをなしとげた人だよ! これくらいの意地悪はさせてもらうよ。あんたには不老不死の薬がふさわしい。不老不死の人形の呪いを永遠に味わうがいい!」
そう言うと魔女は煙のようにこつぜんと姿を消し行方知れずとなりました。
周囲の人々はうろたえ、取りみだしましたが、姫は超然としていました。それは
「別にどっちでもいい」と思っていたからです。
しかし、姫の元に不老不死の秘密を求めて少なからぬ人々が訪れるようになると、そのことについて考えるようになりました。自分のように命に執着の薄い人と不老不死を求めるほど命に執着する人との違いは何なのだろう? と。
あまり何かをしたいという欲求の薄い姫でしたが、歴史の本や哲学の本を読んだり、いろいろな人から話を聞くようになりました。そして、長く生きるうちには深窓の姫でもいろいろな経験をしました。陰謀に巻き込まれそうになったり、災害から避難して田舎暮らしをしたり、何より戦争は悲惨でした。しかし、いつでも姫は人形のように超然とし、来るものは拒まず去る者は追わずという姿勢をつらぬきました。
やがて千年の時が流れました。姫は何でも知っている生き字引のようになり、今では神殿で女神のように敬われています。姫の知識の集積は科学反応を起こし、姫はついに不老不死の秘密を知るようになりました。秘密を知った姫は死のうと思えば死ぬこともできますが、もう姫は死ぬ気にはなれませんでした。
生命の秘密とは一言で言えば、生きていても、死んでもあまり変わりはないということだったからです。
さらに歳月は流れて行きました。ところでこの物語に王子様は出てこないのでしょうか?
王子様は出てこないけど、この話の続きは神話で見つけることができます。
ほら、人形のように美しい女神と男神アロウスが出てくる話です。
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