第17話 ネコの鼻子
「ハナ子のハナは、きれいに咲くお花の花じゃなくて匂いを嗅ぐ鼻の鼻子だよ! だって食べ物の匂いを嗅ぐと必ず鼻をピクピクさせるもん」
小学二年生の女の子のモモちゃんは、お母さんにそんなことを言っていた。
ハナ子って呼ばれているあたしは一歳の黒と白のブチのメス猫。お腹を空かせて弱っているところをモモちゃんのお母さんが拾ってくれた。
モモちゃんはあたしのことが嫌いだ。
この前、モモちゃんのお皿のシャケをモモちゃんが目を離した隙に食べたらすごく怒っていた。
「お母さん。ハナ子は食いしん坊すぎるよ! なんてお行儀が悪いの」
「ハナ子は猫だからね。それにすごくお腹を空かして、つらい目にあったのよ」
ねえモモちゃん。お腹が空くのはすごくつらいことなんだよ。それで食べ物の匂いは幸せの匂いだよ。だからあたしの鼻もピクピクするの。
あたしはモモちゃんと仲良くしたい。だからソファーでテレビを見ているモモちゃんの横に寝そべってたんだけど、モモちゃんがテーブルの上で輪ゴムをいじって遊んでいるのを見てモモちゃんの手にじゃれついたら、うっかり爪でモモちゃんを引っ掻いてしまった。
モモちゃんはお母さんに言いつけた。
「私、ハナ子に引っ掻かれて血が出ちゃった。ハナ子は怖いから私に近づけないで」
「ハナ子はまだ子猫だからイタズラなのよ。しょうがないわね。ハナ子はモモちゃんの隣じゃなくこっちよ」
「ハナ子はよそへあげればいいのに」
あたしは、人間の言葉が喋れないから、テレビの近くの棚に乗って、モモちゃんの目をじっと見た。
モモちゃんもテレビを見るのをやめてあたしの目をじっと見る。しばらくずっとそうしていて目の中に吸い込まれそうだった。
モモちゃんは引っ掻かれてからあたしのことが怖いらしくて、あたしのことを撫でてくれない。
だけどね。あたしが台所で鼻をピクピクさせて食べ物を捜していると、あたしのピンと伸びた自慢のしっぽをつかんだ人がいて、驚いて「ニャア!?」と言って振り返るとモモちゃんだったよ。
ある日玄関で「回覧板です」という声がして、お母さんはそのまま玄関を開けっ放しでどこかへ行ってしまった。
あたしは外へ出て、うろうろしてたら、お昼寝にちょうどいい陽だまりを見つけて眠り込んでいるうちに日が暮れた。
それでお腹も空いたので家に帰ったら、お母さんが心配して捜してくれていた。
お母さんに抱かれて家に入るとモモちゃんは
「ハナ子なんていなくなれば良かったのに」と言って、あたしに近づくとあたしのことを優しく撫でた。
モモちゃん言ってることとやってることが違うよ。あたしは気持ち良くなってゴロゴロ喉を鳴らす。
それから、夕飯の鳥の唐揚げの匂いがしたのでテーブルに上って唐揚げを齧ったらモモちゃんは
「ハナ子はお行儀が悪いよ! 食いしん坊すぎるよ!」と言って怒っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます