第16話 ネガティブドラッグ
薬によって性格がコントロール出来る時代の話。
政府は国が建設的で活力溢れるように、子供たちに予防接種とともに、性格が前向きで明るく建設的なポジティブな性格になるように、最新の脳科学により、脳改造の薬物を投与し、脳の構造を矯正した。
その結果、激しく陽気であるとか穏やかに明るいとか、個性はあるものの暗い性格の人はいなくなった。そして、悲観的な性格の者はいなくなったが、慎重で堅実な穏やかな性格は残されていたので、世の中が明る過ぎて暴走するということはなかった。
しかし、ポジティブシンキングは当たり前で希少価値がなかった。人々の中には脳の改造をしても、若干の暗さや陰りなどが残る人がいたが、そういう人は神秘的でスター性があった。そういう人を見ると人々は
「改善すべきことを前向きに検討するのではなくて『悩む』ことができるとは何と神秘的な!」と称賛した。
また、飲んで陽気になる酒やドラッグは流行らない。世の中明る過ぎるのだ。
人々が嗜好品として嗜むのは、一時的に性格が暗くなるネガティブドラッグだった。そして、普段は理解できない、わびさびや滅びの美学などを味わい高尚な気分に浸れたような気がするのだった。ネガティブドラッグをやりながら、大昔の純文学を読むのを趣味にする人もいた。
一時は空前のネガティブブームが起こったが、ネガティブドラッグ中毒となり、大勢の自殺者が出るようになると、従来のネガティブドラッグは危険薬物として禁止され、もっとライトな深みに入り過ぎない、軽く哀愁を感じる程度のネガティブドラッグしか出回らないように規制されたのだった。
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