第15話 ビューティーコンテスト

 次の水着審査に残ったのは桜子も含めて十名だった。

 ビューティーコンテスト世界大会はますます盛り上がりを見せていく。

 日本代表山岸桜子はシンプルだが自分を引き立てる赤いビキニで水着審査に臨んだ。

 桜子が力を入れたのはセクシーでありながら上品なウオーキングだ。

 案の定、桜子の順番が来ると会場がどよめいた。舞台中央まで歩き、腰に手をあててポーズをとると、感嘆のため息が聞こえてくる。そこで気を抜かずに舞台脇まで、見事なウオーキングでたどり着いた。「さすが桜子さんだ」会場へ応援に来ていたファンがつぶやく。

 ライバルたちのウオーキングはなっていなかった。ただ平凡な歩き方で、足をプルプル震わす者までいた。桜子の足元にも及ばない。水着もワンピースタイプを選ぶ者が多かった。



 水着審査の結果、五名が落選し、残り五名が次のドレス審査へと進んだ。もちろん桜子も残っている。ドレス審査に残ったイギリス、スペイン、アルゼンチン、フィリピン、日本の各代表がドレスに着替えている間に、あらかじめ録画してあった。各代表の紹介の映像が流れた。

 日本代表の桜子の映像は着物を着て、お茶をたて、花をいけているところだった。先程のセクシーな水着姿とは違った。しっとりとした大和撫子ぶりも会場に印象づけることに成功した。



 ドレス審査のドレスは金色のゴージャスなものを選んだ。あえて漆黒にカラーリングした、アジアンビューティーなストレートなロングヘアと濃いめの派手な化粧が映える艶やかな美貌の桜子は派手な姉御肌の存在感を強調し、攻めの姿勢だった。一番のライバルはシンデレラのような水色のドレスを選んだ金髪の儚げで可憐なイギリス代表だろうか? 桜子はイギリス代表の、ゆるくウエーブのかかった見事な金髪は、かつらだろうと思った。

 会場にムーディーで情熱的なバラードが流れる。ドレス審査が始まり各代表はタキシードに身を包んだ美青年の紳士にエスコートされながら会場をねり歩いた。

 ここで桜子が心掛けたのは笑顔である。自慢の白い歯を見せて艶やかに笑ってみせる。ロングドレスのすそ捌きも見事で女王の風格があった。エスコートの紳士とハグして別れドレス審査の結果を待つ。ドレス審査の結果、イギリス、アルゼンチン、日本の各代表三名が選ばれ、いよいよ最終審査となった。



 司会者は言う

「いよいよビューティーコンテスト世界大会の百歳以上部門、最終審査となりました。最終審査は審査員からの質問に順番に答えて頂きます。豊かな人生経験を持つ成熟した女性達の受け答えにご期待ください」



 アルゼンチン代表から受け答えは始まった。アルゼンチン代表は髪を青く染めて銀色のドレスに身を包んだ。個性的な不思議ちゃんだった。しかし受け答えが進むにつれて、その個性は単なる老人性の痴呆であることがわかりマイナスな印象を与えて終わった。

 次に水色のドレスで金髪の儚げで可憐なイギリス代表が健康の秘訣について聞かれて、オリジナルブレンドのハーブティーについて語り知的な側面を見せて好印象を与えた。

 最後に日本代表の桜子にきれいな歯並びは自前なのか、入れ歯なのか? という質問がいった。

「入れ歯です。でも最先端の技術で作られたとても使い心地の良いものです」

「そうは言っても入れ歯安定剤を使うことはありますか?」

「いいえ、ありません。抜群のフィット感なんですよ! それにとりはずしもとても簡単です」

 そう言うと桜子はカパッと入れ歯を外してみせた。

(しまった・・・・・・)

 だが入れ歯を外した桜子の口元は、きゅっとすぼんだ、おちょぼ口となって可愛かった。派手な堂々たる美老女と思われていた桜子の気さくで親しみやすい側面はギャップ萌えを生んで好意的に受け止められた。

 しかし、高齢化社会で顰蹙は買わないものの失態は失態だった。最終審査で女王に選ばれたのはイギリス代表だった。

 桜子は女王の座は逃したものの、その後最先端の入れ歯のCMに起用され世界的な人気者となった。

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