第19話 宝石よりも

 あの子が石を拾ってくるようになったのは八歳の頃だった。

 あの子と一緒に散歩していて偶然綺麗な石を見つけて「きれいだねぇ」とあの子に話したのがきっかけだと思う。

 それから、あの子はたまに色々なタイプの石を拾ってくるようになった。

 綺麗なものもあるし、面白い形のものもあるし、どう見ても普通の石にしか見えない時もある。

 しかし、いつも嬉しそうに澄んだ目で私を見て


「お母さんにあげるね」

と石を差し出してくれた。

 私はそれらの石の贈物をとても捨てることは出来ない。

 小さな器はすぐにいっぱいになってしまい、今では、赤ん坊を寝かせるようなバスケットに入れて貯めているが、それも近いうちにあふれてしまうだろう。

 あの子も、もうすぐ三十歳になる。

 あの子が重い病気にかかった時、心無い人達は私に聞こえないと思って

「あんな知恵遅れの子は死んでくれた方が親は楽だろうね」

と話していた。

 確かにあの子は軽くない知的障害者だ。

 でも、私にとって、あの子の命はこの石でいっぱいのバスケットよりずっと重く、入っている石は宝石よりも貴重で大事なものだ。

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