第8話 ご禁制の品

 ある国にコーヒーの大好きな王様がいました。

 ある時王様は、自分の好きな食べ物や飲み物を断って願をかけるというやり方を知りました。

 王様の好きな物と言えば何と言ってもコーヒーです。

 王様は国民のさらなる幸せを願ってコーヒー断ちをすることに決めました。

 王様は自分一人でコーヒー断ちをしようと決めたのですが大臣が気をきかせて、国にコーヒー禁止令が出ました。

 コーヒーはご禁制の品となりました。

 そのことを王様は知りませんでした。

 王様は国民の幸せを願ってコーヒーを何年も我慢し続けました。

 あの素晴らしい香り、深い味わい。夢にまで見るほどです。

 しかし、我慢しているのは王様だけではありませんでした。

 子供はコーヒーのことを知らなくなり

「コーヒーって何?」

と聞くのでした。すると大人は

「ご禁制の品だよ」と答えるのでした。

 王様は国民の様子を見るためにお忍びで町へ出てみることにしました。

 そしてちょっとだけコーヒーの香りだけでも嗅ごうと思いました。

 ところが町にはコーヒーの香りが漂っていませんし、気配もありません。

 王様は喫茶店で、あの懐かしいコーヒーについて聞いてみました。

「旅人さんですね。気を付けてください。ご禁制の品ですから」

「ご禁制の品?」

「でも、どうしてもということでしたら、こっそり飲めますよ。こちらへどうぞ」

と地下へ案内されました。

 そこでは、王様でも高いと思うような値段でこっそりとコーヒーが飲まれていました。

 王様は自分のせいでこんなことになったことがわかり愕然としました。

 そして国民をちっとも幸せにしていないことがわかりました。

 地下である男は言いました。

「何気なく、寛いで、普段の生活の中でコーヒーを飲む時間は何よりも幸せだったなぁ」と

 王様はコーヒー禁止令を即座に止めさせ、自分のコーヒー断ちも止めることにしました。

 コーヒーを止めてまで得るものなんて何もないことを痛感したのでした。

 そして人々にコーヒーを楽しむ生活が戻りました。

 しかし、時々冗談でコーヒーのことを「ご禁制の品」と呼ぶ風習ができたそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る