ヘタレ・ランウェイ

𠮷田 要

プロローグ

「なんか、見えるの?」

 九月のまだぬるい夜風が吹き抜ける河川敷。響いたその声は、張っているわけでもないのに、不思議と風と草の擦れる音に負けず、よく耳に聞こえた。

 俺は草の上に寝そべったまま、顎を上げて、声の主を逆さに見た。

 河川敷の上の方、丸い満月が放つ黄色い光の中に、女が見えた。歳は大学生ほどで、野球帽の下から肩ほどまでの黒い髪を風にそよがせていた。

「星、わかるの?」

 また彼女が尋ねてくる。少し低く、でも掠れているわけではない声音。

 俺は視線を空に戻して、乾いた唇を舌で湿した。

「……いや。全然、わかんない」

 くすり。彼女は少し吹き出した。

「変なの」

 やがて、彼女は河川敷を降りてきた。

「ね」俺のそばまで来た彼女は、同じように夜空を仰いだ。「月の見方、知ってる?」

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