第3話 不思議な子供《劇団長side》
今日はセルキア村という山奥の村で講演会だ。
王国一になったとはいえ、原点は『みんなに面白い劇を見て欲しい』という想い。この団は地方にもよく行くことがある。
今日もいつもとたいして変わらない。そう、そのはずだった。彼女と出会うまでは。
◆◇◆◇◆◇
劇が終わった後、片付けをしていると、小さな女の子が劇団に入れてくれ、と頼んでくる。
これは珍しいことではなく、よく劇団に憧れた子供がこうやって劇団に入れて欲しいと頼みにくる。
断ると癇癪を起こされるんだよなあと思いながらも断ると、幸いにも癇癪は起こされなかった。
しかし、妙に落ち着いた声であり得ない答えを返してきた。
「歌姫さん、歌に魔力をのせていましたよね。それで観客を魅了していた。……私も感情はともかく、魔力をのせるだけだったらできます」
何があり得ないって?
まず、こんな子供に魔力を載せたことがバレたのがあり得ない。何の装置も使わずあの微量な魔力を検知したのが子供だと? 王宮魔術師でも経験を積んだ上で、よっぽど集中していないと分からない程に少ないのに?
そして、『魔力をのせるだけ』だと? その『魔力を乗せる』ことが一番難しいんじゃないか。むしろ、感情を乗せるだけだったら出来る人はごまんといる。
すると、さらに常識外れなことに、本当に魔力を乗せて歌い始めた。
「……。どこにいるの~♪ お願い、出てきて♪」
それは本人の言葉に反して、とても深い感情が籠っていた。
この歌は、主人公が幼い頃にかくれんぼを楽しむ場面で使われていた。
しかし、少女の歌はまるで死んだ相手にもう一度会いたい、というような切実さがあった。
少女は歌い終わると、こちらを真っ直ぐ見つめて言うのだ。
「この通り、先ほどの言葉は嘘ではありません。お願いです、どうしても叶えたい望みがあるのです。劇団に入れて下さい」
……不思議な子供だ。微量の魔力を探知したかと思えば、完璧な魔力制御が求められる『魔力乗せ』をする。あげく何をしたらこんなに深い感情を子供が抱けるのか、という程強い想いを抱えている。
あの歌で、彼女が決して遊びや一時の憧れで入団を希望しているのではないと分かった。
それに、一番の難所である魔力を声に乗せれている。歌自体も改善の余地はまだまだあるが、美しい音色で奏でられている。
……断る理由がないな。むしろこちらからスカウトしたいくらいだ。
気が付けば、
「分かった。君を劇団に入れよう。給料も仕事に見合うだけ払うと約束する。だが、子供だからと仕事をしないと即出ていってもらう」と、答えていた。
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