第2話 第一歩《ミアside》

 『ミア』として生まれて十年。あらゆること──主に常識について学んだ。

 前世ではただの孤児というだけでなく、魔力がとてつもなく多かったので、良くも悪くも普通の子供時代を過ごしていなかったのだ。


 「有名になるにはどうすればいいのか」ミアは物心つくと同時に聞いて回った。やはり今の時代のことは今の時代を生きる人に聞くのが一番だと思ったからだ。

 しかし大人にははっきりとした答えを返してもらえず、子供たちにはバカにされた。

 ──子供が何を言っても、相手にされないと学んだ。


 五歳の時、読み聞かされた物語に反論した。

 その物語は平民の少女が功績を挙げて王太子と結婚したという内容だったからだ。平民は功績を挙げても、良くて子爵までしか陞爵出来ないし、子爵位では王位を継ぐ者とは──愛妾ならまだしも──結婚できない。

 そう言うと、なぜか「あなたは血筋でしか人を見ないの!?」と、責められた。私は事実を言っただけで、血筋を重視しているのは自分たちが憧れている王族や貴族なのに。

 ──話を意図的にではなく、本気で理解されないことがあると学んだ。ちなみに、話を意図的に曲解する人ならミケイラの時に関わった人間の大抵がそうであった。


 七歳の時、村に熊が現れた。

 魔力は前世から受け継がれたので、魔術で熊を討つと畏怖の目で見られた。

 ──前世で学んだ魔術を簡単に使ってはいけないと学んだ。


 この十年をまとめると、常識は学べたが、肝心の『有名になる』ための手段は全く、手がかりすら掴めていないという状況だ。


◆◇◆◇◆◇


 そんな無為な毎日を過ごしていたある日、村に歌劇団がやってきた。

 今までにも何度か歌劇団が来たことはあったが、滅多に来ない上に、今回の劇団は王国一の評判だという噂なので、村人全員がこぞって広場に集まって観劇した。


 今までの歌劇は歌を重視し過ぎて、ストーリーがいまいちなものがあったが、この劇は歌は心を揺さぶられるし内容も良いと、大人たちが評価していた。しかし、私は内容なんて聞いてはいなかった。

 私が注目していたのは歌姫の歌。歌姫の声は、魔力がこもっていたのだ。


 声に魔力を乗せるのは、完璧な魔力制御が必要だ。しかもそれだけでなく、歌姫は聞いている人に同じ想いが伝わるように、魔力に感情を込めているのだ。 


 普通は、魔力が少ない人ほど魔力制御が簡単だ。それでも、完璧となるとなかなかいない。

 王国一だと言うのならば、それなりに大きなホールで歌うこともあるだろう。会場が大きくなれば相対的に必要な魔力量も増えてくる。

 つまり、歌姫は魔力の量、技量がともに必要なスペシャリストということになる。



 私の前世では莫大な魔力を持っていたが、その多さ故に制御が曖昧だと事故を起こしかけた。だから高い魔力制御を求められ、苦労したが完璧になった。


(これだ……! すでに王国一番なら次は世界一を目指すはずだ。それにたとえ世界一にならなくても次の手段への繋ぎにはなる!)


 公演が終わると、すぐに劇団長の下にかけて行き、私を劇団にいれて欲しいと頼みに行った。


「お願いします。私を劇団にいれてください」

「お嬢ちゃん、気持ちはわかるがね、そんなに簡単なものじゃあないんだよ」


 断られてしまった。当たり前だ。

 しかし、やっと見つけた希望の光だ。諦めることは出来ない。


「歌姫さん、歌に魔力を乗せていましたよね。それで観客を魅了していた。……私も感情はともかく、魔力をのせるだけだったらできます」

「なっ!? 何故それを……っ!」


 どうやら、あまり知られたくない情報のようだ。それもそうか。タネが分かれば他の劇団も真似をしてくるだろうから。

 しかし、劇団長は先程とは違う真剣な顔をしていた。

 ここが揺さぶり時だ。


「……。どこにいるの~♪ お願い、出てきて♪」

 私はさっき歌姫が歌っていた歌を同じように魔力を乗せて歌う。

 歌い終わると、劇団長にもう一度お願いする。

「この通り、先ほどの言葉は嘘ではありません。お願いです、どうしても叶えたい望みがあるのです。劇団に入れて下さい」


 劇団長はしばらく考えていたが、ややあって答えた。

「分かった。君を劇団に入れよう。給料も仕事に見合うだけ払うと約束する。だが、子供だからと仕事をしないと即出ていってもらう」

「ありがとうございます……っ!」


 生まれて十年。これでようやく第一歩だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る