魔王と聖女の約束は来世で

水蓮

第一章 幼少期編

第1話 追憶《ミアside》

 瓦礫の中、死にかけの男と女が、約束をした。


「絶対、世界中に名前が轟くくらい有名になってね。ちゃんと、見つけるから」

「ああ。お前もな」


 男が答えると同時に、今までなんとかバランスを保っていた瓦礫が落ちてきた。


◆◇◆◇◆◇


 セルキア村に生まれた、ミア・セルキア。それがの私だ。

 そう、今世。私には前世の記憶がある。


 前世の私はその魔力の多さから聖女と呼ばれ、教会で働いていた。

 しかし、孤児出身だったため、血統を重視する貴族たちには煙たがられていた。

 そんな目の上のたんこぶな私が、魔王の再来が予言されると生け贄になるのは当然の流れだった。

 表向きは、『これ程の膨大な魔力を持つ者がこの時代に生まれたのは、魔王の生け贄になる宿命だから』という、無関係の民衆からすれば納得できる理由で。


 魔王城に連れていかれたら、後は放っておかれた。逃げても良いが好奇心が勝り、魔王城を探索してみることにした。

 一階から最上階まで回ったにも関わらず、魔王どころか魔物一匹いない。

 部屋はたくさんあったが、そのどれもが生活感を感じられない──いや、そう言うと語弊があるか。正しくは生活感を感じられない、だ。

 どの部屋も昔誰かが使っていた痕跡はある。ただ、そのまま時間だけが経過したように深い埃を被っている。まるで眠っているみたいだ。


 結局はただの噂かと魔王探しは諦め、しかしだからといって、これから先行く当てもない。

 とりあえず食べるものが必要かと思い、調達しに外へ出ると、入ってきた場所とは違うところに出た。おそらくここは裏口なのだろう。

 すると、近くの納屋から物音がする。

 そうっと中を伺うと、庭道具は端にかためられており、大半は紙で埋まっていた。そして、納屋をこうした張本人であろう男が机にかじりついている。

 黒髪に灰色の瞳の男だ。それだけ聞くと普通の男のようだか、翼と角を持っている──つまり魔族だ。


 しばらく眺めていると、ふと目が合った。その瞬間、逃げようとしたが、怒った様子もなく、平淡な声で


「お前は誰だ?」


と、普通に声をかけてきたので、警戒は解かないが逃亡をやめ、魔族の男と話すことにした。


「私は魔王様への生け贄となりました、ミケイラと申します」

「生け贄? どういうことだ?」

と、いうわけでことのあらましを説明した。


「なるほど。……しかし、生け贄など欲さないが」

「そうですよね……。ところで貴方は誰なんですか?」


 魔王側から生け贄を欲していないことに加え、予言でも一言も触れていない事柄だったので、想定内の答えが返ってきた。

 そこで、ずっと気になっていたことを訊いてみた。


「……! 気づいていなかったか。俺がその『魔王』だ。名をジークハルトという」


 魔族だとはその容姿から察していたが、まさかの魔王本人だった。


 食糧を調達しに行くという話をすると、生け贄になったはずなのに、人に会ってはまずいだろう、ということで、城に泊めてもらうことになった。

 ここら辺は、城には誰も近付かないが、周辺の森は魔族も魔物もいない安全な森だと狩人に認識されているようで、よく人が来るらしい。


 泊めてもらえることになってすぐ、ジークハルトが魔術バカなことに気がついた。

 私も魔力が多いため、魔術式を作っては試して作っては試して、と実験した結果、かなり魔術に詳しくなっていた。

 ジークハルトとは馬が合って、共に魔術の研究を進める上で、彼とは相棒のような友人のような関係になり、名前もジーク呼びになった。



 ジークと魔術を研究していたある日、城が大きく揺れた。

 あわてて外を見ると、兵士がこの城を攻撃している。

 魔術を使おうと思ったら使えなかった。魔力はあるのに、自分の意志で操れないのだ。それはジークも同じようで、二人揃って何も出来なかった。


 天井が崩れてくる。一刻の猶予もない。


 私とジークは死に際にある約束をした。

 それは来世で有名になって、お互いを探すということだ。

 そのために、今世の記憶を魂に結び付けて、来世でも覚えておけるようにした。


 名前も分からない。顔も分からない。

 だから、目印に『有名になる』のだ。言葉が世界中に届くように。


 もし同じ時代に転生できても、世界は広い。死ぬまで会えなくても不思議ではない。

 だから、世界で知らない人はいない程有名にならなければいけない。もう一度、ジークに会うために。

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