01

+++


《───プルルルルル…ッ、プルルルルル…ッ、プルルルルル…ッ、この電話は現在、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため架かりません》


「…チッ」


自身のスマホの通話を切り、副隊長の西崎はきつく歯を食いしばる。


「どうしてだ、なぜ出ない。お前が出かけてから4ヶ月だ……連絡がとれねえのは度々あったが、こんなにも長いのは、初めてだぞ…」


西崎は、 隊長リーダ不在の場合は責任者代行を務める関係上、依然として繋がらない文音の行方に不安を募らせていた。

提携している呪術師らにも行方を訊ねるが、返ってくる反応は「心配性」やら「過保護すぎ」という西崎を揶揄するものばかり。真剣に心配しているのが、どうしてこうも裏目に出るのだろうか…。


「…っ!」


仕事上がりに行きつけにしている路地裏の喫茶店NOIRノワールで注文した珈琲を待ちながら、何の気なしに裏通りを流し見していた西崎は待ち侘びた人物の立ち姿を見つけて、思わず立ち上がった。

その人物は今まさに、西崎がいる喫茶店NOIRの入口をくぐろうとしている。

長らく帰還を待ち侘びた主人たる藤咲文音その人が1歩を踏み出すのを待って、西崎は逸る気持ちを抑えながら努めて冷静に声をかけた。


「……隊長」


「……ああ、お前か…」


ソラは目の前に現れた人物を視界に捉えて、内心慌てながらイスナの記憶から情報データを読み取る。

……彼の名は、西崎 宗次郎。彼もまた、呪術師。そしてイスナの腹心の部下であり、元恋人。


「無事の帰投、お慶び申し上げます…」


「業務外だ……堅苦しいのはよせ」


「…っ、悪い」


捕食対象を見つけた絶対的強者の目をする彼女の瞳には、一体この世界はどんな風に映っているのだろうか。

今日も今日とて不機嫌に冷え切ったアッシュモーヴの瞳に、宗次郎は内心で震えた。


「もういい、私のことは放っておけ…」


必要な会話が思いつかないため冷徹な態度で距離を隔てるしか術はなく、西崎から伝わりくる怯えた気配を受けたソラはウンザリと溜息をついた。


「少し、疲れた」


愁傷な空気に西崎が項垂れようとした瞬間、


【ゴォオオァアァアアアアアァァァァァァ…っ!!】


「「!?」」


重低音の強烈な咆哮が夜闇を揺るがすと同時に、西崎とソラのスマートフォンが小刻みに振動バイブレーションして「緊急出動」を報せた。

密かに見回してみるが店内の客らは異変に気づいておらず、談笑を楽しむ雑多な喧騒が満ちているばかりだ。


「なにを惚けている……行くぞ。着いてこい、宗次郎」


「っ、…おう」


文音と久方ぶりに交わす会話に感動していた西崎は、既に二人分の会計を済ませて待つソラ文音の胡乱な眼差しに射られて小走りに背中を追いかけた。


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