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【なあ、なにか俺に言うことねえか?】
「…むしろ、説教なら山ほどある。テレビの次は電子レンジを壊すとは、ろくな事をしないな…」
忙しなく湯気を噴く薬缶の音を背景に、穏やかな夜には似つかわしくない不穏な空気が部屋中にミッチリ熾烈に展開されている。
というのも、原因は啓司が『うっかり』透過したせいで電子レンジが故障したからなのだが、当の犯人は『不可抗力であり自分は悪くない』とへそを曲げているのだ。
どうしても、自業自得を認めたくないらしい。
【だから俺のせいじゃねえって! ちょっと擦り抜けただけで壊れるかよ?!】
「それは霊障だ。れ・い・しょ・う! 霊と家電は相性が悪いのだっ」
【だからって急に殴るこたないだろうが。…ったく、ひっでえ怪力だなぁ…】
※ちなみに右フックを食らって、頬が腫れている。
「なんだと! なんならもう一発いっとくか?」
【おう、やれるモンならやってみな!】
「貴様…っ」
まさに売り言葉に買い言葉…。
“危険だからやめておけ”と勘が言うが衝動は止まらない。啓司の男としての意地とプライドが闘争へ駆り立てるが……。
────ぼきぃ…っ!
…パラパラパラ…。
【や、や、やっぱり遠慮しまっす!】
目前で呆気なく木っ端微塵になった万年筆を見た彼は、脅威を前にして即座に戦線離脱を宣言した。
なにを隠そう、この男は基本的に小心なのである。
「そうか、それは(実力行使ができなくて)残念だ。まったく、修理と買い換え…どっちが安いだろうな?」
【う…。すんません…】
「謝罪したからといっても、すぐに許される訳では無いぞ。そう、肝に銘じておけ」
鋭い眼光に睨まれた啓司が萎らしく背を丸めるが、毛頭許すつもりのないソラは、語気荒く切り捨てる。初対面が悪かったことも影響してか、何かと距離を縮めてこようとする青年霊にソラは依然と警戒していた。
「出る」と噂の部屋なので、家賃は相場よりかなり格安で助かるし、イスナからの依頼を果たすことは即すなわち自身の腹を満たす事に繋がるので、文句はない。
しかし、だ。想像していた生活とのギャップ(幽霊との同居)が激し過ぎて、なんとも言えない不快感が未だにソラを意固地にさせていた。
【ちぇっ。なんだよ、被害者はこっちだっつーの…】
返ってくるだろう毒舌と再びの拳骨に構えていたが、いつまで待ってもソラからの反撃はない。
不思議に思って様子を窺うと、ソラは淡々とダンボールの中身を仕分けている。
ダンボールの中身を見つめるソラの眼差しは、まるでなにかを堪え…悼んでいるようだった。
【お、おい…?】
『……道具の細部に至るまで、しっかり手入れが行き届いていた。……お前は、常に
身を乗り出すようにしてソラの肩に触れた瞬間…啓司の胸中を痺れの塊が鋭く貫通していく。
彼女(?)から伝わってきたのは“誰かをの死を悼む”細い糸のように頼りない思念だった。
(これは、哀惜だ。亡くした誰かを想って…いや、悲しんでいる。コイツにも…大事なヤツ、いたんだろうか…。きれーな顔してるもんなァ。そりゃ…恋人ぐらい、いるよなァ…)
伝わってきた
背を向けて段ボールを漁っているソラの横顔はどこか寂しそうで、今にも泣き出しそうな具合さえ窺える。
一体、誰を想っているのだろう。
そんな気がかりが生まれて、思わず閉口する。
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