第5話 冒険者
街を行き交う人に道を尋ねて冒険者ギルドにやってきた。
建物は二階建てのビルみたいな作り。
扉を開いて中に入ると、冒険者達なのか騒がしい声が響き渡っていた。
入ってすぐ右側が冒険者の溜まり場となっている感じで、左側には大きな掲示板があって無造作に無数の紙が掲示されている。
奥にはカウンターがいくつかあって、それぞれに受付の人が立っている。女性が三人、男性が一人。男性はわりとムッとしていて往年は冒険者のような風貌だった。
ちょっと怖いので女性のところに向かった。
「あの~」
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「冒険者になりたいんです!」
「冒険者でございますか……冒険者の仕組みはご存知ですか?」
いいえと答えると、受付嬢さんが仕組みを丁寧に説明してくれた。
冒険者はランクで別れていて、一番上がAランクで、次がBランク、次がCランクとなる。ランクに応じて受けられない依頼があるので依頼を受ける際にはランクのところを見てから持ってくるように説明を受けた。
「はい。登録料の銀貨三枚です」
銀貨って前世でいう一万円くらいの価値なので、三枚は今の私には結構大きな額だ。これもスラちゃんのおかげで稼げた額だけれど。
「こちらに名前と才能を記入してください」
渡された紙に名前と才能の欄に記入する。
「ルナ様ですね。才能は…………スライムテイマー…………」
「はい。従魔のスラちゃんです」
そう答えると後方から大きな笑い声が上がった。
「おいおい。お嬢ちゃん。スライムテイマーに冒険者は無理だぞー?」
振り向くと、厳ついスキンヘッドで体長二メートルくらいはありそうなおじさんが私を見下ろしていた。
「大丈夫です。私のスラちゃんは強いので!」
「がーはははっ! お嬢ちゃん。スライムは魔物の中でも最弱。魔物と戦わせたら無駄死にするだけだぞ?」
「本当に大丈夫ですので」
「ふむ…………」
男は溜息を吐いて私から遠ざかっていく。
「あ、あの……受付である私がいうのもあれですが、スライムテイマーで冒険者となった方がいないんです……魔物同士の戦いともなれば命懸けになりますし、負けた場合はご自身の命も危険です」
私を心配してくれて言葉を選んで一生懸命伝えてくれる受付嬢さん。やっぱり最初にこの街に来て正解だったかも知れない。
「はい。それもわかっています。ですが本当にうちのスラちゃんは強いので、大丈夫だと思います。これから暫くこの街で活動しますのでよろしくお願いします」
「は、はい……よろしくお願いします」
一旦受付から離れて、依頼できそうなものを探す。
私の身長では届かない場所にも依頼があるが、どれもBランク以上だ。
こう高いモノは高い場所を好むとかいうよね。
一番下にあった近くのボーンラビットを十体討伐して納品する依頼を持って行った。
依頼を受ける時に一度止められたけど、何とか了承をもらい依頼を受けることに成功した。
◆
「あの……どうして付いてくるんですか?」
街の外にまで付いて来たのは、さっき私に声を掛けてくれた大男だ。
「俺様の忠告を聞かなかったからな。スライムが負けてボロボロになるところを笑いにやってきてやったぜ!」
あはは…………内心は違う気がするけど、今はそれでもいいか。
とにかく、時間がもったいないので、早速始めようと思う。
「スラちゃん。探索モード!」
スラちゃんから次々分体が現れる。
分体には全てスラちゃんの意識があり、それぞれにもちゃんと自我があるのでそれぞれ一人でも行動できる。
「な、なんじゃこりゃ!?」
スラちゃんを見てびっくりする大男だが、それに構わず進める。
「目標はボーンラビット十体! 持ち帰るから捕まえて来てね。――――探索開始!」
私の号令と共にスラちゃんの分体が一斉に散っていく。
分体だからといって弱くなるとかもないので、みんなとんでもない速度で走って行く。
スライム隊を送り込んだので後ろを向くと、大男が口を大きく開けてスライム隊が消えた場所を眺めていた。
「あの~大丈夫ですか?」
「ぬああああ!? ちょっと待ってくれよ! あれはなんだ!」
「だから言ったじゃないですか。私のスラちゃんは強いんですって」
「あんなスライムがいるかあああ!」
「あんなスライムはいます。私のスラちゃんは強いんですから~!」
スラちゃんと一緒に大男さんにドヤ顔する。
三分後、スラちゃんの分体たちがボーンラビットを二十匹捕まえてきた。
「みんなお疲れ~! 余分に捕まえてきてくれてありがとうね」
スライムたちは嬉しそうにぽよんぽよんと音を立てて飛び跳ねる。何百体ものスライムが不規則に飛び跳ねると中々の迫力のある音が響く。
分体の大半がスラちゃんに合体して、残った二十匹のスライムがそれぞれボーンラビットを頭の上に乗せて付いてくる。
「おじさん。帰りますよ?」
「お、おじさん!? お、俺はハリーって言うんだ」
「…………」
「な、なんだ!」
「大きいのに名前は可愛いですね」
「っ!」
よく言われるように顔を赤らめた大男ことハリーさんが悪態をつく。
「それはともかく私を守るために付いて来てくれてありがとうございます」
「はあ!? な、何のことだ!」
私のスライムがボロボロにされるのを見るだけなら遠くから追いかけてくるはずなのに、ずっと隣で周りの魔物から守るように立ち振る舞うハリーさん。実は心優しいおじさんのようだ。
「私、初めての街で色々怖かったんですけど、ハリーさんのような方がいるならこの街でやっていけそうです」
「ふ、ふん! そ、それなら歓迎するけどよ!」
口と顔は悪いけど心は優しいハリーさんとともに冒険者ギルドに戻ると、私がやったことをハリーさんがみなさんに伝えてくれて、冒険者として仲間入りを果たすことができた。
それからは色んなことがスムーズに決まり、私が過ごす宿屋は同年代の可愛らしい女の子がいる宿屋に暫く泊まることにした。
冒険者業をしながら臨時パーティーなんかを組んだり、一人で依頼をこなしたりと忙しい日々を送ることとなった。
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