第4話 自由への翼

 サビネさんと出会ってから一年が経過して、十二歳となった。


 そして、今日。ようやく作戦を実行する日がやってきた。


 外が暗くなった頃、毎日私のために頑張ってくれたメイドさんたちに手紙を残し、家を後にする。


 恐らく最後になるであろう家で眠っているお母さんに向かって、静かに頭を下げる。


「お母さん。私を産んでくれてありがとう。私はこれから自由を求めてこの家を出ます。また戻って来れるかはわからないけれど…………天国で私を見守っていてね」


 私はスライムと共に暗くなったこの街から逃げることにした。


 まず最初に〖超合体〗しているスライムに城壁の上まで鞭のように伸びてもらい、一気に飛び上がり城壁に乗る。

 今度はスライムに乗ったまま城壁から外に向かって飛び降りると、着地と同時にスライムの体がぽよーんと音を立ててクッションになってくれる。


 身体能力が向上しているからクッション力も抜群だ。


 今度はスライムが形を変えてバイクの姿になってもらう。まだ身長が小さい――――決してずっと小さいわけではない。まだ成長してないだけだから、すぐに大きくなると思うけど。私が跨ぎやすいサイズにしてもらう。どちらかというとバイクじゃなくて原付バイクかな?


 バイクは本来タイヤがぐるぐる回って走るんだけど、このバイク――――名付けてスライムバイクはタイヤが回らない。何故なら体が一体型だからだ。


 じゃあ、どうやって動くのか? それは単純に――――スライムが走るのだ!


 スライムの移動方法は二つ。飛び跳ねて動くのと地面を滑るように動く方法がある。しかし、このうち滑るように動く方法は、通常スライムなら身体能力が低いのであまり動けない。だからスライムは基本的に跳ねて動く。


 けれど、私のスライムたちは違う。滑るように動く方法でも、とんでもない速さで動けるのだ。さすが転生特典で〖無制限スライム能力上昇〗だ。異世界転生特典恐るべし。


 私を乗せたスライムバイク(?)が走り始めた。揺れ一つなく、前から吹いてくる風もスライムが魔法で受け流しているので風を感じないまま、新幹線並みの速度で走って行く。


 この街から逃げる方法を色々試行錯誤してみて、最終的には私が超高速スライムに乗って逃げた方がいいって結論付けた。


 狙い通りに、夜の静かな世界を爆速でスライムバイクが進んで行く。これなら追手も絶対に追いつけないね!


 スライムバイクのボディーが柔らかくて、気が付けば眠りについてしまった。




 ◆




 何という事でしょう~目が覚めたら別世界~! まるで異世界に転生した時のことを思うようだ。


 スライムバイクで移動中に眠って起きると、世界はすっかり明るくなっていて朝を迎えていた。


 目的地は事前にスライムと打ち合わせしているので問題なく進んでくれたようで、私の目の前に広がるのは、私が慣れ親しんだ街ではなく、全く違う雰囲気の街だった。


「スラちゃん。ありがとう」


 スライムと呼び続けるのもあれだったから、あだ名をスラちゃんと命名した。


 あれだけ働いてくれたのに、私に褒められるだけでものすごく嬉しそうに元の姿に戻り抱き着いてくる。


 テイムしてからいつもの定位置は私の腕の中だ。


 新しい街に向かうと、正面入り口に見慣れない鎧の衛兵が立っていた。


「こんにちは。ここってどこですか?」


「ん? ここはアーデンシェル王国のクマーデン街だぞ?」


「わあ、ありがとうございます! ようやく着きました。入場料は必要ですか?」


「そうだな。国民と冒険者ならいらないが、商人は通行料で銀貨一枚を払わないといけないぞ」


 ここでいう商人というのは、国民と冒険者以外・・を指す。つまり、今の私も商人という形で中に入るわけだ。


「はい。どうぞ」


 スライムの中に保管していた銀貨を一枚取り出して渡す。


 ちょっと嫌そうな表情を浮かべていたけど、渋々受け取ってくれた。


 臨時入場者として十センチの白い棒を一つ貰えた。魔法で管理されている入場証らしく、滞在できる期間は七日。それを過ぎるとまた銀貨を払わないといけない。もし払わないと罰金で銀貨十枚か捕縛されると注意を受けた。


 初めて入るクマーデン街は、私が住んでいた街から馬車で一か月掛かる場所にあり、さらには王国も超えての隣国である。


 もっと離れてもいいけど、サビネさん曰く、この街は色んな物資が集まるし、色んな文化が集まるからおすすめと言っていた。


 あれから一年。ようやくここまでたどり着いた。


 最初に向かうのは――――もちろん、冒険者ギルドだ!

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