第3話 出会い

 スライムの研究に一年が経過して、私は十一歳になった。


 一つわかったのは、無制限のおかげで私のスライムはものすごく強いってことが発覚した。


 それと無制限のおかげで――――無制限に合体もできるようになった。


 スライムには超分裂しては合体してを繰り返してもらって限界までやろうと思ったけど、あまりにも無制限に増え続けたので、暫く止めておいた。異世界転生特典恐るべし。


 最近は街から外に出て狩りを行っている。


 従魔となった魔物は、テイマーの魔力が補給されてお腹が空かなくなるらしいけど、だからといって味覚を失ったわけではない。


 時折魔物をスライムに食べさせるために狩りに出かけているのだ。


 平原にはブラックウルフとオークが現れる。スライムとしてはどちらも美味しくて好きみたいだ。


 今日も次々魔物を駆除していると、一匹のスライムが急ぎ足でやってきて何かを訴えた。


 何を言っているのかはわからないけど、意志は伝わってくる。


「誰かが襲われている?」


 肯定するスライム。


「みんな急ぐわよ!」


 急いで案内を受けて現場に向かう。


 うちの街に続いている道に馬車が止まっており、それを守るかのように囲っている人達がいて、さらにそれを襲うようにブラックウルフの群れが囲っていた。


 このままではブラックウルフの群れの餌食になりそうだ。


「みんな! ブラックウルフの群れをやっつけて~!」


 私の従魔スライムたちは、〖運動能力超絶上昇〗のおかげで信じられない速度で走ることができる。


 目にも止まらぬ速さで馬車のところまで向かったスライムたちが次々ブラックウルフの群れを飲み込み始めた。


 普通のスライムならブラックウルフ一体に全滅するだろうけど、うちのスライムたちはそうはいかない。


 普通のスライムとは違うんだよ! 普通のスライムとは!


 私が馬車に着くまでにはブラックウルフの群れが全部飲み込まれて姿を消していた。


 馬車を守っていた人たちは不安そうにスライムたちに剣を向けていた。


「こんにちは。この子たちは私の従魔です。怖がらないでください」


「なっ!? こ、子供!?」


 驚きをみせる彼らはお互いに顔を合わせる。


 その時、馬車が開いて一人の女性が降り立つ。


 一目でわかる。彼女はとんでもなく――――強い人だ。


 腰に掛けられている細剣と彼女が帯びているオーラは、私のスライムたちが放つ強そうなオーラに似ている。


「みんな、集合!」


 スライムたちが一匹に集まり始める。これは〖超合体〗だ。


 降りて来た女性の綺麗な赤い瞳が私に向く。


「初めまして。お嬢さん」


「初めまして。ルナといいます」


「これはご丁寧にありがとうございます。私は冒険者のサビネと申します」


 貴族風挨拶を披露した彼女の少しウェーブの掛かった長い赤髪が揺れる。


「此度はブラックウルフの群れから助けてくださりありがとうございます」


「いえいえ。サビネさんなら放っておいても問題なかったと思います。余計なお世話をしてしまったようですいません」


「ふふっ。そんなことはありません。少なくともあのままだと護衛をお願いしていた冒険者たちがケガをするところでした。ありがとうございます」


 挨拶を終えると、馬車の中から男性の咳払い音が聞こえてくる。


「これは失礼。私達はこのまま街に向かいます。よろしければお礼をしたいので、このまま一緒に行きませんか?」


「お礼ですか……?」


「ええ。せめて食事くらいは奢らせてください」


「!? 行きます~!」


 サビネさんは「ふふっ」と優しい笑みを浮かべて私を馬車に案内してくれた。


 中には豪華な衣服の中年男性と執事の初老の男性が一人いた。


「初めまして。ルナと申します」


「初めまして。わしはバルバロスという。よろしく頼む」


 丁寧に挨拶してくださる貴族は初めてなので、少し戸惑いつつも粗相そそうのないように挨拶をする。


 私を乗せた馬車は街に向かい、とある貴族様の屋敷に止まった。


「バルバロス様。私はルナ様と一緒に食事にしますので」


「わかった。彼女をよろしく頼むぞ」


「はい」


 バルバロスさんが屋敷に入り、私はサビネさんと屋敷を後にした。


 誰かと一緒に歩くのは久しぶりで、この距離感で歩くのは初めてのことかも知れない。


 お母さんはずっと体が弱かったし、お父さんは言わずもがなで、去年は護衛のお二人と歩いたくらいだ。そもそも外に出かけることが少ないからね。


「ふふっ。楽しそうね?」


「へ? は、はい! こうして誰かと一緒に歩くの……初めてで…………えへへ」


 正確には初めてではない。前世では友人と一緒に旅に行ったりしていた。


 異世界で十年も生きていると、懐かしい思い出になっている。


「サビネさん? どうかしましたか?」


「!? な、なんでもないわ。さあ、今日はたくさん遊びましょう」


「はい!」


 大通りを通りながら両脇に並ぶ露店を見て回ったり、広場中心部にある噴水を眺めたり、飲み物をご馳走になったりと楽しい時間を過ごす。


 サビネさんは冒険者のようで色んな街を渡り歩いているから、色んな街のことを教えてくれた。


 空が暗くなり始めた頃、向かった高級レストランでは、異世界に生まれて初めてみる上品なコース料理が運ばれてきた。


 普段からメイドさんが料理を作ってくれるので、こういうのを食べる機会もないし、私も最近は料理らしい料理もしなくなってしまった。


 洋風の料理はどれも美味しくて、サビネさんとの会話も弾んでとても楽しい時間を過ごした。


 食事を楽しんで私を送ってくれるってことで、家に向かう道。


 私の現状をサビネさんに相談した。


「ルナちゃん……」


 サビネさんが私を優しく抱きしめてくれる。


「サビネさん!?」


「大変だったんだね…………でもあきらめないで。貴方にはいつも力になってくれる仲間がいるでしょう?」


 サビネさんが私とスライムを優しく撫でてくれる。


 この感覚…………お母さんの優しい手に似ている。


「ルナちゃん。嫌なら嫌って言っていいのよ? 自分の道は自分で決めていいの。だから、時には自分を優先してもいいからね?」


 自分の道は自分で決める。


 その言葉に思わず涙が流れた。


 お母さんからも言われた言葉。私が異世界に生まれた理由。それを垣間見れた気がした。


「サビネさん。ありがとうございます。私……やっと決心が付きました」


「ルナちゃんならやれるわ。応援しているからね?」


 その日、私は自由のために戦うと決心した。

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