【第三章】②

 それから二日が過ぎて、金曜日になった。前と同じく家を出る準備をしているねーちゃんが僕にいってくる。

「あ、そうだ。今日はつーちゃんの検査で病院に行く日だけど、あたしちょっと間に合わないかもしれないんだよね。あんた行って来てくれる? 診察室には入らなくていいし、一緒にいてあげるだけでいいから」

「えー……」

 僕といえば、寝てるところを叩き起こされたのでまだ頭がぼんやりしていた。カーテンから入る朝のざしが眩しくて、テレビから流れる朝のニュースが少しうっとうしい。着てるのはこの前と同じく上下グレーのスウェット。この前から一度も着替えてない気がする。

「もう、ぼーっとしてないでしっかりする! もう朝の八時だよ、せっかく早起きしたんだからさっさと顔洗ってきな」

「んー……」

 目をこすりながら洗面所に行って顔を洗う。そうすると幾分いくぶんかは頭がスッキリして目が覚めてきた。

「……で、検査ってなんの? え、誰の?」

 頭を掻きながら聞き返す。「もう。話聞いてなかったでしょ」とねーちゃんはいった。

「紬ちゃんの付き添い。あんたの先輩。わかった?」

「紬ちゃん……」

 その単語でようやく話を理解する。紬ちゃん……秦野先輩だ。ねーちゃんはその人の付き添いで、行けるときに病院に行ってるんだっけ。

「……というか僕、今停学中なんだけど。行ってもいいの?」

「いいんじゃないの? 別に遊びに行くわけじゃないんだし。今日は金曜日だからつーちゃんの検査は夕方からなんだけど……あんた、どうせ暇でしょ?」

「暇……といえば、まぁ、そうだけどさ……」

「じゃ、決まりね。遅くても夕方の四時には病院で待っててあげてね。多分、検査が終わるぐらいにはあたしも行けると思うから。じゃ、あたし大学行ってくるからね。行ってきます」

「えっ、ちょっ……」

 バタンとねーちゃんは玄関の扉を閉めてしまった。

「……」

 残された僕はガリガリと頭を掻く。

 そういえば前にも誘われたけどてっきり忘れていたことだ。つーちゃん……秦野先輩の付き添い。あの人にどんな顔をして会えばいいんだろう。あれだけはっきりと拒絶された人間が。なんとなく気になる、という曖昧あいまいな理由で本人に会いに行った人間が。

 そもそも、先輩は留年したって三年生だ。それに僕らはほんの数日前までは関わりのなかった……もっというと、お互い名前も知らなかったような関係だ。そんな関係の……しかも二週間の停学を受けた後輩が会いに行くなんて。

 心の中がモヤモヤする。会ってもいのかという気持ちが半分と、もう半分は――。

「とりあえずもう一回寝るか……」

 扉の鍵を閉め、僕は玄関に背を向ける。そのときくっきりと浮かんでいた自分の気持ちからも、僕は背を向けた――。





 それから数時間後。もうすぐ夕方の四時になる。

 僕は病院の出入り口にいた。邪魔にならないよう端っこでスマホをいじり、さも誰かと待ち合わせをしていますというふうに。まだ髪を黒に染め直していないので、一応、帽子を深くかぶってできるだけ地味な格好にした。Tシャツにパーカー、黒いズボンだ。ピアスも全部外したので、帽子を脱がない限りは目立たない……と思う。 

 病院の入り口で待っていると、ポロン、とスマホが鳴ってねーちゃんからメッセージが来た。

『大丈夫? つーちゃん来た?』という内容だった。それに『大丈夫。まだ来てないよ』とだけ返す。ふと、僕はなんでここにいるんだろうと思う。別に僕じゃなくてもよかっただろ。ねーちゃんには悪いけど、付き添いは断ればよかったかもしれない。そう思ったとき――僕の目の前で一台の軽自動車が停まった。すぐに後部座席のドアが開いて、中から女の子が降りてきた。

「ありがとうございます。行ってきますね」

 他の音に消え入りそうな透明な声――秦野先輩だ。ドクン、と僕の心臓が大きく跳ねる。

「あ……この前の。佐倉くん。こんにちは」

 僕に気づいた先輩は、そういって優しく微笑んだ。

「こ、こんにちは……」

 顔を背けながら挨拶を返す。どうしてか、先輩のその笑顔を直視できない。

「あら」

 と、運転席の女性も僕のほうを見た。運転席に乗っていたのは園芸部顧問の加賀見先生だった。

「佐倉くんじゃない。ちょっと待っててね、車を停めてくるから」

 そういうと、加賀見先生は車を動かして駐車場のほうへと向かって行った。

「すみません、私、受付に行かなきゃいけないので……。前、通りますね」

 先輩はパタパタ僕の前を通って自動扉をくぐる。今日は平日だから、当然ながら先輩は制服のままで――手には前に見たあのノートを持っていた。

「あ、えっと……」

 僕は受付に向かう先輩の背中と、走り去って行った加賀見先生の車とを交互に見やる。このままここで待っているべきか、それとも先輩の後を追いかけて建物の中に入るべきか少し悩む。

「お待たせ。あら、中に入らないの?」

 少しして。病院の出入り口で突っ立っているそんな僕に、加賀見先生が不思議そうな顔で声をかけた。




 

「聞いたわよ。停学になったんですってね。他の先生たちはみんなピリピリしてるわよ」

 待合室から少し行った所にある休憩所……そこのソファに僕と加賀見先生は隣り合って座っている。病院は今日も人がいっぱいだ。近くのナースステーションでは「まだ面会できますか?」って聞いている人もいれば、「病室に戻りますからね」っておじいちゃんの車いすを押してる看護師さんもいる。

「もしかして志織ちゃんの代わりに来てくれたの?」

「そうですね……。あんた暇でしょっていわれて……」

「私もずっとはいられないから助かるわ。紬ちゃん、一人じゃこわいだろうしね。来てくれてありがとう。安心して、ここで佐倉くんと会ったことは誰にもいわないから」

 先生は優しく笑ってそういった。僕は「ありがとうございます……」といってみるが、停学中に学校の先生と会って少し気まずい。

「検査のことは聞いた?」

「いえ……。多分、まだ待ってるんだと思います。先輩、一人で先に行っちゃって……」

「そうなの。終わったら呼ばれるわ。『秦野さんの付き添いの方』ってね」

 先生はいった。

「紬ちゃんね、最近はすごく調子がいいみたいでね。私としても嬉しいわ。授業の内容もちゃんとおぼえててすごいのよ。昨日はあなたと会ったって話してくれたわ。たくさん話してくれたみたいね。本当にありがとう。あなたにライターをもらったってすごく喜んでたわよ。それに、佐倉くんとなにを話したかってこともちゃんとおぼえてて――」

「……え?」

 ちょっと待ってくれよ。おぼえて――……なんだって? 今、先生はなんていった? 僕は驚きと動揺に、ゆっくりと目を見開いたのが自分でもわかった。

「先生、今、なんて……」

「……佐倉くん、もしかして、なにも知らないままここに来たの? お姉ちゃんから……志織ちゃんからなにも聞いてないの? 紬ちゃんのこと……」

 僕の様子がおかしいことを察したのか、目を見開いた加賀見先生が僕の顔を見た。

「一緒にいてあげるだけでいいっていわれて、ここに来ました……。あの、先生……。あの人、なにかあったんですか? なにかの……病気なんですか? いつから……」

「……」

 僕は聞く。先生は黙り込んでしまった。いっていいものかと、深く悩んでいるような顔。

「あの、先生……。去年、先輩がちょっとした騒ぎを起こしたって多岐先生に聞きました。もしかして、それと関係していたりするんですか?」

 僕はいう。胸の奥が……ギュッと痛んで苦しい。心臓がドクドクと激しく跳ねている。なんだこれ、なんで僕は、涙が出そうになってるんだ……。

「……」

「……先生、お願いします。僕は……知りたいんです。停学中なのになにをいっているんだと思いますが、知りたいんです……あの人のこと。お願いします。お願いします……」

「……」

 先生の返事はない。僕はそのときにハッとする。いつの間にか帽子を脱ぎ、先生に頭を下げていた。完全に無意識だった。いつの間に……。なにをやってるんだ、僕は。完全に感情だけで動いていた。

「……頭を上げて、佐倉くん」

 そういわれ、僕は素直に頭を上げる。先生の顔は暗かった。他人の事情を本人ではなく自分の口からいってしまう罪悪感と、僕が彼女の事情を知っているものだと思い込んで話してしまった後悔……その二つの感情がにじみ出ているようだった。

「去年の……あれは六月なかばのことだったわ」

 人のざわめきが聞こえる中、加賀見先生は静かに話し始めてくれた。こめかみには汗の粒が浮かんでいる。

「誰かが泣いてるって生徒にいわれてね。急いで見に行ったら……紬ちゃんが園芸部の部室の中で泣きじゃくってたの」

 それを聞く僕の心臓が、ドクドクとさらに激しく暴れ始める。喉がカラカラに乾いて、唇も小さく震え始める。なんだよこれ……。まさか、こわいのか? 先輩のことを聞くのが……僕はこわいのか?

「部室の中はめちゃくちゃになってて、多分……紬ちゃんがやったんだと思うんだけど……。机も椅子もひっくり返っててね、紬ちゃんが大事にしていたカメラも壊れちゃってて、紬ちゃんの教科書とノートなんかはビリビリになってたわ。その中で、紬ちゃんはへたり込んで泣いてたの。どうしたの? 大丈夫って聞いてもなにも答えなくて、ただずっと……泣いてたわ。紬ちゃんが落ち着きを取り戻したのは、それから二時間ぐらいして、完全下校のチャイムが鳴った頃だったわ。親御さんが来ても……紬ちゃんはなにも話してくれなくてね……。志織ちゃんがなにがあったのって聞いても、ただうつむいて……それだけだったわ……」

「……」

 僕は、言葉を失っていた。衝撃だった。唾を飲み込むのさえ忘れて、先生の話を聞いていた。

「あんな優しい紬ちゃんからは想像がつかないでしょう? それもあって、紬ちゃんは段々クラスからも浮いちゃって、先生たちからも扱いづらい生徒だっていわれ始めたわ。それで何日かして急に『卒業したくない』っていって休みが多くなって……授業にも出なくなったの。あの子ね、病気になる前は毎日学校が楽しいっていってたから……卒業してお友達と離れたくないのかと思ったわ。でも休みがちになった紬ちゃんは単位が足りなくなって……今年にもう一回三年生をやることになったのよ」

 それで、話は終わりのようだった。しん、と僕らのあいだに沈黙が広がる。

 とても信じられなかった。あの先輩が……そんなことをしたなんて。まったく想像がつかなかった。あの、机さえも持ち上げられなさそうな先輩が。部室の中をめちゃくちゃにしたなんて。

「……あ、ごめんなさいね。多岐先生からだわ」

 加賀見先生は鞄の中から自分のスマホを取り出して画面を見る。

「私、学校に戻らなくちゃいけないんだけど……佐倉くん一人で大丈夫? 志織ちゃんが来るまで一緒に待ってようか?」

「……だ、大丈夫です。先生……ありがとうございました」

 僕はその言葉を喉から絞り出すので精いっぱいだった。

「……じゃあ、私は学校に戻るわね。紬ちゃんのこと、お願いね」

 そういうと加賀見先生は立ち上がって、僕の前から去って行った。





 それから三十分ぐらいして。

「秦野紬さんの付き添いの方、どうぞ」

 看護師さんにそう呼ばれて、僕は診察室に入った。椅子に座って待っていたのは眼鏡をかけた男の人だった。胸元の名札には『国立』と書かれている。

「えー……秦野紬さんですがね。その前に、あなたとのご関係をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「あ、えっと……友人です……」

「そうですか。私は秦野さんの担当をしております、国立くにたちです」

 僕が帽子を脱いで丸椅子に座りながらいうと、国立先生はモニターを見たままでそういった。僕のことはあまり気にしていないようだった。

「まず、今日の検査ですが……見たところ異常は見当たりませんでした。ここ一週間の記憶も安定しているようです。ストレスもうまく発散はっさんできているようですね。前向きな発言が見られるので、次の検査の日……火曜日に記憶がどうなっているかですね」

 モニターに顔を向けたまま、僕の顔も見ないままで――国立先生は淡々と説明する。その内容の一つ一つが、僕の耳を通り抜けていく。まるで現実じゃないような感覚。

 先輩の笑顔が脳裏に浮かぶ。あの困ったような、しょんぼりしたような笑顔。

『あなたと私、会ったことありますか?』――そういったときの先輩。

『私は一人でいいんです。だから……ごめんなさい』――そう、先輩はいった。今にも泣きそうな顔で。

『今日の昼休みも『ハタノ先輩』と会ったんだけど……なんていうか……』

 いつか省吾にいった言葉。うすうすはその違和感に気がついていた。でも、ほんとにそうだとは思えなくて――。

『まるで僕と会った昨日のことを……きれいさっぱり忘れたみたいだった』





「……先生」

 固まっている僕を見かねたのか、看護師さんが国立先生にいった。国立先生はゴホン、とわざとらしく咳をして、モニターを見たままだった顔をようやく僕に向けると、こういったんだ。

「秦野紬さんは記憶きおく障害しょうがいわずらっています。ちょっきんの情報がおぼえられなかったり、過去の記憶が抜け落ちてしまう病気です」

 先生がいったと同時、ヒュ、と喉が絞めつけられた。先輩が……記憶障害? 情報をおぼえていられない病気……? 僕は言葉を失う。国立先生は、そんな僕に淡々と説明する。

一過性いっかせい全健忘ぜんけんぼうといって、逆行性ぎゃっこうせい……過去の記憶が失われることと、全向性ぜんこうせい……物事ものごとを新しく記憶できないことの二つがあり、秦野さんの持っている病気はその二つです。主な原因は老化によるものが多いですが、秦野さんの場合は頭をぶつけたことが直接の原因だと思います。それで頭蓋骨とうがいこつ直下ちょっかにある脳を覆うこうまく……簡単にいうと脳と脳を覆う隙間に血液がたまり、それでいっとき記憶障害が起こったのですが――」

 国立先生の声が……遠くなる。椅子に座っているはずなのにふわふわして……自分の体から魂が抜け出て行くような……そんな、ひどく現実味のない感覚が僕をおそう。

「そっちの血がたまる病気は手術をしたので完治しています。しかしその時によるストレスなどが蓄積した結果、秦野さんはまた記憶障害を起こしたのだと思います。そしてその症状が出るタイミングですが、これはこちらとしてもはっきりとはわかりません。それは本人にも。おそらく強いストレスがかかったときに記憶が抜けてしまうのだと思いますが……本人にもその記憶が抜けている可能性がありますね。忘れたことを忘れている、かもしれないということです。いつのことをおぼえていて、どれを忘れているのか。ここ一年間の記憶も曖昧になっていて、ぽっかりと抜けている部分もあるようです。もしも記憶が抜けてしまった場面に遭遇そうぐうしたら、まずは秦野さんを落ち着かせてあげてください。秦野さんが落ち着きを取り戻したら、秦野さんがいつも持っている日記を一緒に読んであげてください。それだけで安心しますから」

「わかりました……」

 魂の抜けた人形のようになった僕は、半分反射的にそううなずいた。

「では、お話は以上です。待合室でお待ちください」

 国立先生がいう。「ありがとうございました……」といいながら僕は椅子から立ち上がる。

「ああ、そうだ。秦野さんが検査のときに日記を忘れて行ってしまったようなので、渡してもらってもいいですか?」

 国立先生から一冊のノートを渡される。それには『私の日記 秦野紬』と書かれている。

「わかりました……」

 僕はそれを受け取り、肩にかけていたショルダーバッグの中にしまった。看護師さんが診察室のスライドドアを開けてくれて――僕はふらふらと部屋を出た。

 もうすぐ病院が閉まる時間だ。最終の受付をする人たちに混じり、待合室のソファには……先輩が自分の名前を呼ばれるのを待っている。隣に座るおばあちゃんに「今日は寒いですからね」なんて話をしながら。

「そうねぇ、明日は雨だから桜もっちゃうわねぇ」

「そうですね。近くの河川敷は桜がいっぱい咲いててすごくきれいなのに、残念ですね」

 人のざわめきの中でもはっきりと聞こえる透明な声。

 おばあちゃんと他愛たわいのない会話をする先輩を見て――なぜか、じわりと視界が濡れる。涙だ。どうして……。

 なぜだが、楽しそうに話している先輩を見ていると心臓がキュウッと締め付けられて苦しくなる。悲しみやらの感情が、涙と一緒にこみ上げてくる。

 診察室の前で突っ立っている僕に「どうかしましたか?」と看護師さんが声をかける。

「だ、大丈夫です」

 脱いだ帽子で思わず顔を隠す。そのまま僕は、男子トイレへと駆け込んだ――。




 それから十五分ぐらいして、ねーちゃんがやっと来た。

「ごめんお待たせー」

 待合室から離れた場所のソファに座っている僕の前に、ねーちゃんが立つ。

「つーちゃんは? まだ検査してる? もう終わっちゃった?」

「先輩は……多分受付にいるよ」

 僕は下を向いたままそういう。

「……そう。あたし、タクシーでつーちゃんを送ってから帰るね。遅くなるから先に帰っててもいいよ。あたしの代わりに病院まで来てくれてありがとね」

「ねーちゃん……」

「うん、なに?」

「先輩……病気なんだってね」

 僕は顔を上げて、立っているねーちゃんを見た。きっと僕はひどい顔をしていただろう。さっきトイレの鏡で見た自分の顔は……目は真っ赤に充血して、まぶたも腫れあがっていてひどいものだった。

「ねーちゃんは……知ってたの? そんな病気があるから先輩は留年したの?」

「……誰に聞いたの?」

「加賀見先生と、担当医の……」

「……そっか」

 ねーちゃんは少し間を空けてそういった。

「加賀見先生が病院まで連れて来てくれるもんね。それで……聞いちゃったのか」

 ねーちゃんは独り言のようにいう。

「ごめんね。まさか、今、知っちゃうとは思わなかった。つーちゃんの検査が終わるまでには……あたしが来れると思ってたんだけど」

 そういうと、ねーちゃんは静かに僕の隣へ腰を下ろした。

「あたしが来たときにでもさ、つーちゃんと三人でその話をしようかなって思ってたんだけど。そっか……もう、全部知っちゃったんだね」

 といって、ねーちゃんは話し始めた。

「あれは誰にでも起きる事故だったんだよ。去年の五月……その日はすごい雨の日でね、滑って転ぶ子がいたぐらい廊下も濡れてたの。それでね……つーちゃんもその濡れた廊下で滑っちゃって……階段から落ちて頭を打ったの」

「それが……記憶障害になった原因だったの? 病院の先生もいってたけど……」

「多分ね。あたしもあとから知ったんだけど、頭を打った部分に血がたまってたんだって。それを手術で吸い出したっていってた。それで退院して学校に戻ってから、つーちゃんは今まで、できてたことがちょっとだけできなくなってたの。ついさっきやった内容なのに、授業で指されても答えられなかったり、赤信号なのに渡ろうとしちゃったり、家の鍵や自分のスマホをよくくしたり。最初はみんな、つーちゃんのうっかりかなって思ってた。でもそれが段々ひどくなって……好きだったことも全然しなくなっちゃったの。お弁当も食べたくないっていって、ガリガリにせちゃってね。それで六月に……つーちゃんはちょっとした騒ぎを起こしたの」

「園芸部の部室をめちゃくちゃにしたって……」

「そう。それも加賀見先生に聞いたの?」

「うん……」

「そっか。あたしから、もっと早くいえばよかったね」

 ねーちゃんはソファの背もたれに背中をつける。

「つーちゃんはね、園芸部の部室をめちゃくちゃにしてたの。もうすごかったんだよー。机も椅子もひっくり返っちゃってて。あんなちっちゃいつーちゃんがこんなことしたのかって、あたし、ほんとに信じられなかったんだから。ケガの一つもしてなかったのはさいわいかな。保健室まで一緒に行ったんだけど……なにも話してくれなくてね。『どうしたの?』って聞いても、ずっと首を横に振るだけ。今でもなんでつーちゃんがあんなことしたのか、あたしにはわかんないよ。多分、担任のみっちゃんも園芸部の顧問の加賀見先生も……そうだったと思う。それも……本人は忘れちゃってるかもしれないしね。そのときになにを思ってたのかってのは、そのときのつーちゃんしかわかんないまま」

「……」

「一応なにがあったかっていうのはあたしから教えて、あの子、日記には書いてるんだけどね、いまいち実感はないみたい。当然だよね。『あなたがそれをしたんだよ』っていっても、本人がそれをおぼえてないんだから。去年のことも……ぼんやりとしかおぼえてないみたい。あたしと友達だっていうのはわかってるんだけど、一緒になにをやったかっていうのは……もう忘れちゃってるみたいなんだよね。教えても『そうだっけ』っていうだけ」

「ちょっと悲しいよね」とねーちゃんは笑ってみせた。少しだけ目じりを下げた笑顔だった。

 仲良くしていた友達が急に自分のことを忘れたら。僕は省吾のことを頭に浮かべた。幼稚園から何十年の付き合いになる幼馴染。その省吾が急に僕のことを忘れて「お前誰だ」といってきたら、僕でもかなりのショックだ。学校終わりにコンビニに寄って唐揚げやパンを食べたこと。休みの日に一緒に街まで行って服を選んだこと。ゲームセンターで財布がすっからかんになるまで遊んだこと。僕が初めてピアスを開けるとき、「こういうときはビビるからこわいんだよ」といって思いっきりピアッサーを押して僕の耳たぶに大きな穴をあけたこと。その思い出のすべてを急に忘れ、よそよそしくなった省吾を想像するだけで胸が苦しくなった。ねーちゃんはそれを……何度経験してきたんだろう。

「ねーちゃんは……強いね」

「なによ急に」

「いやその……普通、友達がそんなになるって……耐えられないじゃん。なんでそんなにずっと付き合えるの?」

「ばかねぇ」といって、ねーちゃんは僕の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。

「そんなもん、友達だからに決まってるでしょ。それ以外もないよ」

 ねーちゃんは、ただそういった。

「じゃあさ、あんたはあの省吾くんがつーちゃんと同じ、いつ記憶が消えちゃうかわからない病気になったら、あんたあの子と友達やめるの?」

「それは……しないと思う」

「じゃあそういうことなのよ。それだけ」

 といって、ねーちゃんは椅子から立ち上がる。

「あたしはつーちゃん探しに行くけど、あんた一人で帰れる?」

「うん、大丈夫……」

「そ。じゃ、気をつけてね」

 ねーちゃんはそういうと、ナースステーションのほうへ歩いて行った。

「……」

 僕は、顔を下に向けて床を見つめる。国立先生にいわれたこと。ねーちゃんがいっていたこと。それらがぐるぐると頭の中に浮かんでいた。

 記憶障害。忘れてしまう病気。そんな病気を持っている先輩のことを想う。先輩の困ったような、恥ずかしそうな笑顔を頭に浮かべてまた泣きそうになる。

「……」

 鼻をすすり、服の袖で涙をぬぐった。こすりすぎて目の周りが痛かった。鼻の頭がヒリヒリしている。それでも鼻水は止まらず、涙はあふれるばかりだった。僕はしばらく、そこで人知れず泣いていた。




 どのぐらい、ソファに座ったままだっただろう。

 スマホの着信音でぼうっとする意識が現実に追いつく。

「誰だよ……」

 ズボンのポケットからスマホを取り出して画面を見る。『省吾』と表示されていた。あいつがメッセージもなしに急に電話してくるなんてめずらしい。僕は画面をスワイプして電話に出る。

「どうした? 省吾」

『ああ……えっと、どうしたとかいうんじゃないけど……お前、タバコがバレて停学になったんだってな』

「そうだな……って、それいうの遅くないか? もう六日ぐらい過ぎてるけど」

 今の時間は午後六時半。あたりは暗い。省吾は学校が終わってから電話をかけてきたんだろう。

『みっちゃんに聞いたんだよ。お前は風邪かぜで休んでるっていってたけど、さすがに長すぎるし……。お前、結構噂になってるぞ。商品盗んだとか自転車壊したとか……みんなおもしろがっていってるよ。一応聞くが……そんなことやってないよな?』

「あのなぁ省吾。やるとしたらもっと目立たない方法でやってるよ」

『はは、だよな。わかってるよ。拓輝はそんな奴だもんな』

 耳に当てたスマホから省吾の笑い声が聞こえてくる。だけど……なんだかいつもと違う気がする。まるで無理に笑ってるような……そんな感じだ。

「まさかあのタイミングでバレるとはびっくりだよ。急にタバコをやめてイライラするし、絶好の昼寝場所にも、もう行けなくなっちゃったし。悪いな省吾、二週間はボッチめしをしてくれ」

『いやいや、俺はお前と違って友達多いから、そこは気にしなくていいぞ』

「そうか。じゃあもう勉強教えてやんねーからな」

『あ、それはちょっと違うんじゃないかな……⁉』

 省吾はいつもの調子でふざけるが、やっぱりなんだか元気がない気がする。

『あのさ、拓輝。お前、今どこにいんの? なんか人の声が聞こえるけど……』

「今は病院だ。先輩の……」

 そういいかけて止まる。僕は先輩の……なんだろう? 僕と先輩は……ただの先輩と後輩の関係だ。それだけの、関係。

 そう、それだけの……。

「それより省吾、お前今、外にいるだろ。なんか他の音が聞こえてくるぞ」

 僕はわかりやすく話を逸らした。

『あー……まぁ、外にはいるな。はは……』

「省吾。僕は今、ねーちゃんの学生マンションにお世話になってるからあんまり外には出られない。あと、金は絶対に貸さないぞ。それも踏まえて聞く。なにがあったんだ?」

『いや、なにもないぞ』

「そうか。なら切るぞ。本当にいいのか?」

『……ああ。切れよ。悪いな、急に電話かけちまって。また学校でな』

 何秒かのを空けて、省吾はいった。僕は通話を切らず、そのまま待ってみる。

『……』

 十秒ほどしても、省吾も通話を切ろうとはしない。僕はさらに待ってみる。すると観念かんねんしたのか、

『……俺さ』

 と、ようやく省吾はいった。すぐに続きが聞こえてくる。

『振られちまったよ。結構、がんばったんだけどさ……』

 声だけなのに、今にも泣きそうな顔で無理に笑っているのが、はっきり想像できた。

『……はは。ごめんな拓輝。お前、停学中なのに。こんなことで電話かけちまってよ……』

 いつもの省吾とは思えないほど弱々しい声。その声が震えているのがはっきり聞こえる。そのあと、小さな嗚咽おえつが聞こえてきた。

『……情けねえ、振られたぐらいで泣いちまうなんて。ごめんな、もう切るから』

 鼻をズビズビすする音。省吾の声がさらに震えるのがわかる。

「……お前はよくがんばったよ。がんばりすぎたぐらいだ。これからの休日は全部僕とのデートだな」

『はは。勘弁してくれよ……』

 冗談をいうと、省吾の力ない笑い声が聞こえてきた。僕はソファから立ち上がる。

「どうせあの河川敷かせんじきだろ。今から行くから……ちょっと待ってろ」

『え、なんでわかっ……いや拓輝。お前、今、停学中だろ? 外に出たら停学期間が延びるんじゃ……』

「それは教師にバレたら、だ。もうタバコもバレたし……なんかもういいかなって」

『で、でも……』

「たまたまお前と放課後によく行く河川敷に行きたくなっただけだ。ちょっと寄る所があるから四十分ぐらいかかる。待てないなら帰ってもいいぞ」

『親友が会いに来てくれるのに帰れるかよ。俺はお前と違ってクズじゃねえし』

「お前はとことんいい奴だな。僕の足元にも及ばないけど」

『拓輝、お前の悪いところはそういうとこだぞ。だから停学になったんだ』

「余計なお世話だ」

 そう返して通話を切り、僕は病院を出る。すぐに向かう先は省吾がいる場所ではない。僕の荷物を置いている、ねーちゃんの家だ。




 すでにあたりは真っ暗だ。もう夜の七時を過ぎているもんな。外灯もない河川敷にいるのは、夜のジョギングをしている人と……遅い犬の散歩をしているおじさんぐらいだ。

 サワサワと草が風に揺れる。街の明かりを反射し、ちゃぷちゃぷと川の水が流れていく。その中で、省吾は川を見つめて座っていた。いつもはハーフアップに結んでいる髪を全部下ろしている。

「来てやったぞ。帰ったのかと……思ったけどな」

 僕は息を整えながら、そんな省吾の隣に腰を下ろした。僕の手にはどこかの雑貨屋の紙袋。ねーちゃんの家に寄って取ってきたものだ。

「……帰らねえよ。お前が来てくれるのに」

 省吾はそういって笑った。目の周りが真っ赤になっていた。

「省吾、お前なんだよその顔。目が真っ赤だぞ。子供みたいに泣いたのか?」

「お前だって目がれてるじゃねえか。停学になったのがショックだったのか?」

「……うるさいな。僕のことはほっとけ」

 僕は帽子を脱いで膝の上に置いた。当然ながら今日は平日なので省吾は制服のままだ。制服のボタンを閉めるのが面倒くさい僕と違って、省吾は「暑い」という理由で制服のボタンを全部開けている。校則に引っかかるかというギリギリだ。

「……」

 しばし、僕らのあいだに沈黙が広がる。さわさわと風が流れて、草と川を揺らす。

「……俺さ、」

 省吾がいった。

「お前が先輩と屋上に行った日……俺、先に帰るっていっただろ?」

「ああ、いったな。帰ってなかったのか?」

「帰ろうとしたらさ、俺の彼女……ああ、もう別れたから違うか。俺の……元彼女から連絡が来てさ。なんだっけ……よくわかんねえけど、また、なんか買ってくれっていわれてさ」

「うん」

「でも、俺もかなり小遣いもなくなってたし、プレゼントで結構使っちまってよ。だから『ごめん無理だ』って断ったんだ。来月、バイト代が入るまで買い物もデートも無理そうだって」

 草と川を揺らす風の中に、省吾の声が混じる。

「そしたら、相手はなんていったと思う? 『あっそ。じゃ、もう別れよ。最初からあんたのこと、好きでもなかったし。そっちが振ったとか、変な噂広めないでよ』だってよ。女ってこわいよな」

 省吾は眉を下げて、無理やり笑った。

「こんなことになるなら、母ちゃんと妹に……もっとなんかしてやればよかったな。はは……。結構、バイトもがんばったんだけどなぁ……」

 省吾は唇を震わせて、鼻をすすり始めた。

「お前の言う通りだったよ。どうせ別れるのにって、その通りになっちまったな。やっぱ、経験者は違うよな、なぁ拓輝」

 省吾は目に涙を浮かべて僕のほうを見た。鼻の先と目の周りが真っ赤になっていた。暗がりでそれだけがはっきりわかった。

 今にも泣きだしそうな省吾になんて声をかければいいのか、僕にはわからない。僕にはここまで人を好きになった経験も失恋した経験も――ない。今まで何人かと付き合っては来たけれど、そのすべてが特にこれといって楽しくもないしつまらなくもなかった。僕にとってはどうでもいいものだったんだ。

 だから僕には、省吾がちょっとだけうらやましくもある。

「一目惚れでも、うまくいかないことはあるよ」

 そんな上から目線の言葉しかいえない。何様だ、僕は。普通ならゲームセンターやカラオケ、ファミリーレストランで腹がいっぱいになるまで食べて、いつもと同じようなくだらない話をしてなぐさめるんだろうな。でも、今の僕はタバコがバレて停学中だ。金もなければ遠出もできない。もっというと外にも出られない。結局僕は、髪は染めたりするのに退学がこわい……中途半端な「不良」だ。しかも、荷物をまとめたが行く所がなくて姉の学生マンションにお世話になっている。「失恋したぐらいで泣くなんて情けない」と省吾はいっていたが、僕のほうがよっぽど情けない。

「一目惚れってな、拓輝」

 と、川を見ながら省吾は話し始めた。

「そのときは、そうだって思わないんだ。でも段々な、その人のことを無意識に考えちゃうんだよ」

 省吾は話し続ける。鼻水をすすりながら。ときどきあふれる涙を袖でぬぐいながら。

「気になってしょうがなくなるんだ。無意識なのに、ずっと考えちゃうんだよ。胸の奥が苦しくなって、うまく息ができなくなって。でもいざ会ってみると緊張して、うまく話せなくなるんだよ。それで、まともに顔も見れなくなるんだ。それでやっと気づくんだよ。ああ、あの人が好きなんだなぁって。あれが一目惚れなんだなぁ、って」

 省吾は、いった。なぜかそのときパッと頭に浮かんだのは――秦野先輩の困った笑い顔だった。

 それを思い出して胸の奥がキュッとなる。心臓がドクドク暴れて高鳴り始める。その高鳴りは、緊張なんかじゃない。先輩のことを思い出して胸が苦しくなる理由は――。

「……その人のことしか考えられなくなるなんてまるで呪いみたいだ。僕にはごめんだね」

 とっさにそういう。僕はまたその気持ちから目を逸らし、背中を向けた。

「呪いか……そうかもな」

「そうだよ。一目惚れで相手の心に芽を植え付けて、脳も支配するんだ」

 冗談っぽく僕はいう。そんなものはありえないと思いながら。

「案外、そうかもしれないな。お前の考えも間違ってないのかもな。俺も……こんなに泣いちまうとは思ってなかったから」

 そういって、省吾は――

「それでもさ、また誰かを好きになっちまうんだよな。つらくなるってわかってるのに。ばかだよな」

 いつもの、クシャッとした明るい笑みを僕に向けた。

「お前ももし好きな人がいるのなら、後悔する前に告白しとけよ。俺みたいになるぞ」

「……ばかいうな。僕に好きな人なんて……ありえないよ」

 目を逸らしながらいう。省吾は気づいただろうか。僕のうそに。

「ま、来てくれてありがとな。ちょっとスッキリしたわ」

「ならよかったよ。ほら、これで涙ふけよ」

 僕はゴソゴソと紙袋から、いつかごみ箱で拾ったバッグとハンカチを取り出した。省吾が彼女……元彼女のためにバイトをがんばり、その金で買ったプレゼント。あの日学生鞄に無理やり押し込んで持って帰り、家に帰ってからちゃんときれいにしておいた。僕は取り出したハンカチを省吾に差し出す。

「ああ、ありがとな……ってこれ、なんでお前が持ってんだよ。お前にあげたわけじゃねえぞ?」

 省吾はまた泣きそうな顔で、無理やり笑っていった。

「拾ったんだよ。僕の趣味じゃないからお前にやる。ハンカチはちゃんと洗っておいたから気にするな。バッグはおばさんか妹にでもあげろよ」

「拾ったって、どこで……」

 そこで、省吾はハッとなにかに気づいたような顔をした。そして、

「……そうだな。バッグは母ちゃんにやるよ。ハンカチは……妹は黒しか使わねえからな、ばーちゃんにでもあげるよ……」

 そういいながら、僕の差し出したハンカチとバッグを受け取った。

「停学中なのにありがとな。またメッセージ送るわ」

 省吾は立ち上がる。

「付き合う奴はもう少し考えたほうがいいぞ、省吾」

 僕も立ち上がりながらいう。 

「そうだな。しばらく女の子はこりごりだ。『そういうのもういい』っていう、お前の気持ちがちょっとわかったよ」

 省吾はそういって肩をすくめた。ちょっとだけいつもの調子に戻っている。元気が出たみたいだ。

「この借りをどう返してくれるのか、停学が終わってからの楽しみにしておくからな。そうだなぁ……たとえば僕の欲しいものをお前が全部買ってくれるとか……」

「はぁ⁉ なにいってんだよ。そんなことしたら俺の小遣いどころかバイト代全部なくなっちまうだろうが!」

「僕は電車でいったんねーちゃんの家に帰り、そこからこの河川敷まで走って来てやったんだぞ、それぐらいやれよ。金が足りねえならバイトを増やしてもっと稼げ。それかそのバッグとハンカチ売っちまえ。もういらねーだろうが」

「ひ、ひでえな……やっぱりお前はクズだよ拓輝。最低だ……」

「そんな最低の人間と、お前は幼稚園からの付き合いなんだぞ」

「そうだよな……幼稚園のときにお前に『一緒に遊ばない?』って声かけたの後悔してるわ……」

「これからもよろしくな、省吾」

「うわ、すっげえ満面の笑み……。お前にはかなわねえわ……」

「さ、帰るぞ。停学明けは楽しみにしておくからな」

 僕は省吾の肩をポンポン叩く。

 それから駅までくだらない話をしながら歩き、僕らは同じ電車に乗って家に帰った。

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