第13話 ここ掘れワンワン!

 初のコラボ配信!

 よーし、張り切って活躍するぞ!


 ……と、思っていたのに。


「スラ!」

「ゴブ!」


 ダンジョンに入ってすぐ。


 ただの公園みたいな広場にいたのは、スライムやゴブリンのような最弱の魔物。

 それも、なんか優しそう。


「ニャ~ン」

「チューチュー」


 あとは猫やハリネズミ、ウサギといった実に可愛らしい魔物の面々。

 あまりに凶暴さが無く、魔物かどうかすら怪しく思える。


「ワフ(なにこれ)」

 

 みんな、全っ然強そうに見えないんだけど?


「可愛いです!」

「そうっしょ~」


 というか、二人も戦う気なんてサラサラなさそうだし。


 今日のコラボ相手『電波アリサ』に連れられて来た彼女所有のダンジョン。

 いくら弱いとはいえ、少なからず戦闘にはなると思った。


 なのに、


「アリサさん! この子抱いていいですか!」

「いいよ~。襲ってくることはないから」

「やったあ!」


 二人とも魔物と触れ合い始めちゃった。

 

《やっぱこれよなあ》

《今日も癒される》

《癒しダンジョン》

《魔物ちゃんたち可愛いね》

《鈴花ちゃんも大喜び!》

《ただの公園定期》


 コメントを眺めて温度差を感じた。

 なるほど、ここはもう「癒し」の空間なのか。


 どおりで、ダンジョンに挑むのに気軽に入っていくわけだ。


「本当に襲ってきませんね!」

「みんなペットみたいなものだからね~」


 よく考えればそうだな。

 アリサさんも探索者というわけではないし、装備をしていない時点で気づくべきだった。


 なんか俺一人で張り切っちゃってたな。

 それにしても……


「ウサギちゃん可愛い!」

「飽きるまででな~」


 鈴花はダンジョンの魔物たちに夢中だ。


 ああ! 俺の鈴花が!

 

 うぅ、ちょっと悲しい。

 これがNTR。

 まさか高校生で味わうことになるとは。


《ユキ君嫉妬しっとしてるw》

《悲しんでて草》

《かわいそうw》

《それもかわいい》

《でもこれは仕方ないね》

《ウサギ>ユキ君》


 視聴者みんなよくそんなコメントできるな!

 俺は悲しんでいるのに!


 そうして、俺がしょぼーんとしていると、


『君はどこから来たの?』

「ワフ!? (え!?)」


 なんとスライム君が話しかけてきた。

 

 ぽよんぽよんな水色の液体の体に、つぶらな瞳。

 生前好きだったゲーム『ドラゴン探索』のスライムにそっくりだ!


「俺の言葉がわかるの?」

『同じ魔物だからね!』


 魔物となったことで魔物語が分かるようになったみたい。

 俺の言葉も通じているようだ。


「ユキ君、ついにお友達!」

「ワフワフ言ってるけどね~」


 でも、周りには「ワフ」と言っているようにしか聞こえていないんだな。

 俺はスライム君と会話を続ける。


『君はアリサちゃんのお友達?』

「みたいなものかな」

『そっかあ。それなら信頼できるかな!』

「なんのこと?」

『付いてきて!』


 尋ねるとスライム君はぽよんっ、と動き出す。

 ここは従って付いて行ってみる。


『ここらへんかなあ』


 少し移動して、スライム君はようやくこちらを振り返った。


『実はね、ここを真っすぐに掘るとすごいお宝が眠ってるんだ!』

「ええ!?」


 スライム君は急にすごいことを言ってきた。


「本当に!?」

『ナマズ君が言ってたから間違いないよ!』


 スライム君が指した方向を見ると、空中にふよふよと浮くナマズみたいな魔物がいた。

 実際のナマズは地震が分かるみたいな話があるし、似た力を持っているのかな。


「じゃあどうして掘らないの?」

『掘らないんじゃなくて、掘れない・・・・んだ』

「え?」

『僕たちに力が無さ過ぎて』

「あ~」

 

 公園のようなダンジョン内をもう一度見回した。


 スライム、ゴブリン、猫、うさぎ、ハムスター、ナマズ……。

 たしかに地下を掘れそうな魔物はいないな。

 せめてモグラでもいれば良かったのに。


『だから君にお願いできないかなあって! 君すごく強そうだから!』

「ま、まあね~」


 自分自身まだ未知数だが、この体は実際強い。

 地下を掘ることなんて造作もないだろう。


 それなら!


「俺に任せて!」

『本当!』

「うん! 俺ならできると思う!」

『わあい楽しみ!』


 俺は早速、鈴花とアリサさんに駆け寄った。


「ワフワフ!(ねえねえ!)」

「お、どうした~子犬」

「ワフ、ワフフ!(地下を掘っていい?)」

 

 俺はモグラの真似をしながら必死に伝える。


「地下? 別にいいけど~?」

「ワフゥ!(すごいものがあるらしいんだ!)」


 興奮気味に両手を大きく広げる。


「ほ~。それは期待できるね~」

「ワフッ!」


《ここ掘れワンワンwww》

《本当にあるんだなw》

《犬しててワロタ》

《かわいい笑》

《公園で堀り堀りはまんまこいぬだわ》

《見たいかも!》

《可愛いよ〜!》


 俺たちのやり取りにコメントも大盛り上がりだ。

 ここ掘れワンワンか、言われてみればそうだな。


 そうして、鈴花がしゃがみ込んできた。


「ユキ君。スライム君に教えてもらったの?」

「ワフ!(そうだよ!)」

「へえ……!」


 なぜか嬉しそうな顔を浮かべた鈴花は、俺をひょいっと抱き上げる。

 小学生の時、鈴花に初めて友達が出来たのは嬉しかったけど、それと同じなのかな。


 とにかく……やったぜ、胸元奪還!


「そうか~。ここにいるみんなじゃ掘れなかったんだね~」

「ワフ!(そうらしい!)」

「んじゃ、頼むわ〜」


 鈴花に続いてアリサさんにもなでなでされた。

 ひんやりとした手が気持ち良い。


「ユキ君頑張って!」

「ワフフッ!(がんばるっ!)」


 鈴花の胸元をぴょんっと飛び出して、俺は地下を掘り始めた。


「ワフウウウウ!(うおおおおお!)」


『がんばれー!』

『子犬君!』

『僕たちの分まで!』

『応援してるよ!』


 鈴花とアリサだけじゃなく、周りの魔物君たちも応援してくれている。


《ユキくーん!》

《がんばってー!》

《勢いすげえww》

《もう見えなくなったぞwww》

《ちゃんと強いんだよな》

《がんばえー!》


 それは視聴者も同じだ。


 応援というのはますます元気が出てくる。

 俺はペースを上げて一気に掘り進めていく。


「ワフウウウウ!(うおおおおお!)」


 そして、


「ワフ!(これは!)」


 地下の奥深くで何かに当たった──。

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