第11話 初ダンジョン配信で「超感動エピソード」

 「ワフー!」

「ギャギャァ……」


 得意のひっかきや嚙みつきを駆使して、現れたゴブリン達を倒す。

 魔物に遭遇したのは、これで三度目だ。


「ユキ君! 本当に強い!」

「ワフフ!(どんなもんだい!)」


 もちろん戦闘が終われば、とことん格好をつける。


 人間の最期は、思春期特有の恥ずかしがり屋なところがあったからな。

 最近、何をしても可愛がられる環境で自己表現が得意になってきた。


「よしよ~し! 頑張って偉いねえ」

「ワフゥ~」


 抱き上げられてなでなでされる。

 これで俺はどこまでも頑張れるぞ!


 さらに、


《つよ~い!》

《子犬なのにね!!》

《かわあああ!》

《飼い主さんの為に頑張って偉い!》

《かっこつけて可愛い~!》

《照れてる~》


「ワッフッフ(ふっふっふ)」


 コメントもすごく褒めてくれる。


 口調的に女性が多いのかな?

 鈴花すずかの為に戦っているとはいえ、悪い気分ではないね。


 だけど、やはり目に付くコメントが。


《ゴブリンぐらいならなあ》

《俺でも倒せる》

《持ち上げ過ぎ》


「ワフ!(むむ!)」


 ここまで力を見せてもダメか。

 よっぽど俺がうらやましいと見える。

 非モテどもめ……今に見てろ!


「ワフ!(鈴花!)」

「どうしたのかな?」

「ワフフ!(進もう!)」

「そうだね! 行こう、ユキ君!」





「ワフ!(ストップ!)!」

「ユキ君!?」


 鈴花に胸元に住み着きながら進んでいた先。

 強力な気配を察知して、胸元から飛び出す。


「ワフフゥ!(下がってて!)」

「え? ……はっ!」


 鈴花も気づいたみたいだ。

 ズシン、ズシン……と足音を立てて近づいて来る魔物。

 

「ギャヤアアァァー!」


 あれは、ゴブリンの進化形『ゴブリンリーダー』か!


 緑色の全身や人っぽい顔は変わらないけど、でかい……!

 3メートルぐらいあるんじゃないか?


 加えて厄介なのは、


「「「ギャギャ!」」」

 

 取り巻きのゴブリンもたくさんいることだ。


 これはまずいな。

 鈴花の胸に集中しすぎて、警戒心が薄かったか。


「ユキ君……!」


 鈴花は自分の武器をぎゅっと握った。

 怖いのかもしれない。

 そういえば、俺が死んだときもこんな状況だったな。


 でも、


「ワフゥ……!」


 大丈夫!

 鈴花は俺が必ず守る!


「ワフー!」

「ユキ君! 気をつけて!」


 俺は勢いよくその場を蹴り出した。


「ギャヤ!」

「ワフ!?」


 ゴブリンリーダーの槍が思ったより長い!

 子犬の体じゃ近づけない!


「ギャッ!」

「ワッ(くっ!)」


 しかも、周りのゴブリンは弓矢か!

 戦略が徹底してるな!


 それなら、周りからやった方がよさそうだ!


「ワフゥ!(食らえ!)」


 『猛烈ラッシュ』ー!!

 壁キックを駆使して色んな方向からひっかきまくる俺の必殺技だ!


「ギャギャー!」

「ワフ!(よし!)」


 周りの取り巻きは片付いたぞ!

 これであとは……


「ギャッ!」

「え!?」

「ワフ!?」


 と思っていたら、一匹逃していた。

 

 逃したゴブリンは弓矢を鈴花に放った。

 くそっ、間に合え……!


「キャウンッ!」

「……! ユキ君!!」


 俺はすぐさま方向転換して、鈴花の盾になった。

 弓矢は俺の腹元に刺さっている。


「ユキ君! ユキ君!」

「ワフ……(鈴花……)」


 俺はもう死ぬのか。

 腹に弓が刺さってこんなに痛く……ん?


「ワフ?(あれ?)」


 俺は改めてお腹を触ってみた。

 うん、弓矢は刺さってる。


 でも……あれえ?

 全然痛くない・・・・

 なんだこの体、不死身か??


「ユキ君! ユキ君!」

「ワフフ……(鈴花、あのね……)」


 大変言いにくいんだけど、実は痛くないんだ。

 でも、うまく説明できない。


 そうして、チラっとカメラに映るコメント欄が見えた。


《ユキ君!》

《飼い主を守ったか……》

《もう飼い主想いなんだから!》

《死んじゃやだよ!!》


 なんかしんみりしてるう~。

 さらに、


《犬! 悪口言って悪かった!》

《頼む生き返ってくれ!》

《もう悪口書かないから!》

《こんなの望んでないぞ!》


 多分さっき悪口を書いてた人達も、必死にコメントしている。


「ワフ(ふむ)」


 俺は考えた。


 これはチャンスだ。

 「子犬が飼い主を身をていして助け、それでもなお飼い主を守り抜いた」という超感動エピソードを作るチャンスだ!


 そうと決まればやることは一つ!


「ワフゥ……」

「ユキ君! 動いちゃダメだよ!」


 俺はめっちゃ痛そうに・・・・しながら動き出した。

 弓矢も痛がりながらに抜いた。


「ワフ……(待ってて……)」

「ユキ君! ダメー!」


 繰り返すが、実際のダメージはほぼゼロだ。

 つまりこれは100%演技です。


「ワ、ワフゥ……!」

「ギャギャァ!」


 弓矢を放ったゴブリンにまずは制裁。

 ピリっとはしたので、強めに殴った。


「ワフ(あとはお前だ)」

「ギャヤアアァァー!」


 俺は傍にあった弓矢をくわえる。

 これでリーチ差も少しは埋まる。


「ワフ!」

「ギャヤアー!」


 キン! キン! と戦闘音が鳴り響く。

 首を振り回すのはめっちゃ疲れる。

 某海賊団の緑髪の剣士さんもこんな気持ちなのだろうか。


 だけど、やはりこの体は強い!


「ワフー!」

「ギャヤアァァ……!」


 ゴブリンリーダーの体を弾き返して、心臓を弓矢で一突き。

 ゴブリンリーダーは死に際の声を上げて倒れた。


「ワフ……(うぐ……)」

「ユキ君!!」


 そして、演技の・・・倒れ込み。

 ギリギリ勝った感の演出だ。


「もう! 無理をして!」

「ワフゥ」


 鈴花に抱かれながら、チラっと配信カメラに映るコメント欄を見る。


《ユキ君~!》

《頑張ったね!!》

《すごかったよ!》

《泣いちゃった》

《これからは応援するぜ!》

《ああ! 悪口はもう書かない!》

《お前は立派だ!》


 現在視聴者数:15000


「ワフッ(おおっ)」


 コメント欄もだが、視聴者数が異常に伸びた。

 またどこかで話題になっていたのだろう。


 計算通り……いやそれ以上の結果になったな。


 でも、ちょっと鈴花を心配させてしまったかな。

 これからは控えるようにしよう。


 そう思いながらも、いつもより多めに鈴花の胸元を堪能たんのうして帰った。

 

 こうして、まじで強い体と俺の演技が相まって、最初のダンジョン配信は大成功。

 これをきっかけに、また鈴花のチャンネルがバズりましたとさ。

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