第8話 親友のギャル

 ピンポーン。


 日曜の朝早く。

 誰かが菊園家に訪ねて来た。

 

「はーい」

「ちょっとちょっと~!」

「え、向日葵ひまわり!」


 鈴花が返事しながら開けると、扉からは女の子が。


 あれって、同じクラスの『陽野ひの向日葵ひまわり』じゃないか。


 綺麗な金髪をウェーブにした髪が特徴的で、ちょっとギャルっぽいところがある。

 雑誌モデルも受けたことあるんじゃなかったっけ。


 たしか鈴花とは親友だったはず。

 俺も一応面識がある(人間の頃はあった)。


「鈴花、昨日動画あげたでしょ!」

「どうしてそのことを?」

「今ネットで話題になってるの! ほら!」

「えーと……え、うそ!!」


 動画って、もしかして俺のお食事動画のことか?


 陽野さんが鈴花に見せたスマホを俺も覗く。


 って、おい嘘だろ!?

 昨日の動画が100万再生!?

 これ完全にバズってるじゃん!


「てか、そのわんころじゃん! ちょーかわ!」

「ワフッ!?」


 陽野さんに気づかれると、そのまま抱かれる。

 ぎゅむっと効果音がしそうなほど強く抱かれた。


 なんか鈴花とは違った甘い香りがする!

 胸は……鈴花の勝ちかな、って何考えてんだ俺!


「いつから飼ってたの?」

「一昨日だよ。それでなりゆきで配信も始めることになって……」

「ふーん」

「ワフ?(あれ?)」


 今一瞬、向日葵が落ち着いた顔を見せたような?

 気のせいか?


「とにかく、せっかく来たなら上がってよ向日葵!」

「ん、ありがと」


 二人は真っ直ぐ鈴花の部屋へ向かった。





「お茶持ってくるから待ってて」

「あざーす」


 鈴花の部屋で一息つくと、彼女は部屋を離れた。

 部屋には俺と陽野さんの二人だ。


「じー」

「ワ、ワフ……?」


 なんだなんだ?

 陽野さんは声に出しながら俺を眺めてくる。


「君が鈴花を元気づけてくれたんだね」

「ワフ(え?)」

「あんなに笑ってる鈴花、久しぶりに見たからさ」


 そう言いながら、陽野さんは昨日の動画をまた再生する。

 陽野さんの安心しているような顔。

 さっき一瞬見せたのと同じような顔に見える。


「ここ一か月、鈴花ずっと落ち込んでてさ。まあ、近くにいた人が急に死んじゃったら誰でも辛いんだけどさ」

「!」


 “一か月”、“近くにいた人”。

 間違いない、俺のことだ。


「鈴花も真面目だからね。父が払ってくれてる学費は無駄にできない、って学校には毎日来ててさ。それでもやっぱ辛そうだったわけ」

「ワフゥ……」


 そうなのか。

 会った時からすでに明るかった鈴花。

 てっきりあの時のままの彼女かと思ったけど、そうではなかったんだな。


「でも、君がまた鈴花を笑顔にしたんだね」

「ワフ?」

「なんとなく分かる。君、犬成いぬなりくんっぽいし」

「ワファ!?」


 心臓が飛び出すかと思った。

 いきなり正体を暴かれそうになったのだから。

 

「本当にそうだったりしてー?」

「ワフワフー(いやいやー)」


 ちょっとやめてくださいよ奥さん、みたいな感じで否定した。

 ここは全力拒否もかえって怪しくなりそうだからな。


「なにそれ、ほんと面白いわんころだね」

「ワフ(それは納得)」

「ははっ、うなずくなっての」


 陽野さんに頭をポンポンとされた。

   

 陽野さんはずっと鈴花を心配してたんだな。

 ギャルっぽいけど、優しくて良い子だ。

 鈴花は良い友達を持ったな。


 そうして、部屋の扉が開く。


「お茶だよ~」

「お、タイミング良いじゃーん鈴花」

「ん? タイミング?」

「こっちの話。ね、わんころ?」

「ワフッ!」

 

 陽野さんの言葉に元気に返事をした。


「まあ、仲良くなる分には良いかな」

「でしょでしょー」

「ていうか聞いてよ。昨日ユキ君がさ~」


 それからは他愛のない話が続いた。

 女子会に混ざっているみたいで緊張したけど、自然と触れ合ってくれる二人にそれも段々解れていった。


 ……ちょっと女の子事情的な話もあったけど。


 そして、改めて思った。

 一度俺のことに向き合おうと。


「ワフ」


 実家、行くか。

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