第6話 配信を始めてみようかな?

 「大丈夫ですか!」

「ワフッ!」


 叫び声がした方へ進んで行くと、一人の男性が追い詰められていた。


 今すぐに助けないと危険だ!

 って、待てよ!?


「オガアアァァ……!」

「ワフ!?(なに!?)」

「うそ!」


 あの鬼のような顔……『オーガ』か!?

 オーガは俺が殺された魔物。

 強いのは俺が身を以て覚えている。


 でも、今ならやれる!


「ワフー!!」

「オガァ?」


 俺が思いっきり威嚇いかくをすると、オーガは巨体に似合う大きな目をギョロっとこちらに向けた。


 俺だって強いんだ。

 もうビビらないぞ!


「ワフ!(こっちだ!)」

「オガアァァ!」


 金棒を持ったオーガは、俺に釣られてこちらを追いかけて来る。

 追い詰めていた男性とは反対方向だ。


「こっちです!」

「あ、ありがとう!」


 鈴花すずかは俺の意思を読み取ってくれたのか、その隙に男性を救出した。

 こういう時に動ける人って本当にすごいと思う。


 そうして、少し広い場所に誘い出した。

 あとはオーガを倒すだけだ!


「ワフウウウウ!(おりゃああああ!)」

「オガァァァ!」


 先ほどと同じく、壁キックを駆使して引っかきまくる。

 必殺「猛烈もうれつラッシュ」だ!(いま命名)


「オ、ガァァ……」

「ワフ!(よし!)」


 捉えられぬ速さと鋭利えいりな殺傷力。

 この体に限界はないのかと自分でも驚きながら、俺はオーガを倒した。

 あの時のリベンジだ!


「ユキ君!」

「ワフ~ン」


 そして勝利の柔らかな抱擁ほうよう

 やっぱこれがないとなあ。

 すんすん、ああ、良い匂い。


「す、すごい……」


 助けた男性も驚いているみたいだ。

 男性は鈴花と俺に感謝を伝えてくれる。


「本当に助かったよ。ありがとう」

「いえいえ!」


 鈴花は人助けもできる良い子です。

 学校では生徒会にも入っています。

 くそう、俺が話せたら褒めちぎったのに!


「ところで、この子犬は?」

「昨日懐かれたんです! こんなに可愛いのにすっごく強くて! ダンジョンもこの子が行こうって言い出したんですよ」

「そうなんですか」


 男性は不思議そうに俺を見つめた。


「ワ、ワフゥ……?」


 そして、再び鈴花の方を向く。


「もしよかったら、この子とダンジョン配信をしてみては?」

「ダンジョン配信……今流行りのですか?」

「そうだね」


 お、俺も聞いたことがあるぞ。

 

 本来は危険なはずのダンジョン。

 その様子を映像上で流した配信するのが『ダンジョン配信者』だ。


 視聴者が何の危険もなくダンジョンを楽しめるそのコンテンツは、とても儲かるらしい。

 今のインフルエンサーはダンジョン配信者もすごく多い。


「ワフワフ!(やるべきだよ!)」

「ユキ君……」


 全力で首を縦に振ると、鈴花も頷いてくれる。


「それは良いかもしれません。夢のある話ですね!」

「そうかい! では──」

「でも、配信機材を買う程のお金はうちには……」


 そうか、配信をするにはカメラやマイクなどを揃える必要がある。

 スマホだとどうしても難しいだろうしな。

 

 じゃあ難しいのかな……。

 と思っていた時、男性はニッコリと笑った。


「申し遅れました。僕は『加目羅カメラ』と言います。普段はこういう仕事をしている者です」

「えっ」


 そうして男性はスマホを見せて来た。

 俺も彼女の肩に飛び乗って眺める。


「配信機材を取り扱う店の店長をやってます。今日のお礼に、配信機材は一式こちらで準備しますよ」

「そんな! 受け取れないです!」

「いやいや、君達が来てくれなかったら命は無かった。どうか受け取ってほしい!」


 鈴花が申し訳なさそうにしたところ、逆に頭を下げられてしまった。


「僕はどうしても最新機材を自分で試したい欲がありまして。急遽きゅうきょ、探索者が来られなくなったんだけど、我慢できなくて一人で潜ったらこの様です。探索者の才能はゼロみたいですね」

「は、はあ」

「だからせめて、あなたの夢を追うお手伝いがしたいんです!」

「……」


 鈴花の考えが傾いて来たみたい。

 よし、これはもう一押しだな。

 

「ワフ! ワッフゥ!」

「ほら、この子も張り切っているみたいですよ」

「ユキ君……」


 彼女はようやく頷いた。


「分かりました。ぜひお願いします!」

「こちらこそ!」

「ワッフー!(やっふー!)」


 話がまとまり、俺たちはダンジョンを脱出した。







 やってきたのは街の商店街。

 加目羅さんに連れられた場所に来ると、配信機材などの店が立ち並んでいた。


「たくさん店があるんですね~」

「配信文化は元々盛んだったからね。ダンジョン要素も加わって、今は競争が激しくなってるよ」

「そうなんですね」


 そうして鈴花は、加目羅さんから配信機材一式をもらった。

 

「え、これって!?」

「うん、全て最新式だよ。ユキ君を可愛くかっこよく撮ってあげなきゃ」

「あ、ありがとうございます……!」


 全て最新式の物だったらしい。

 太っ腹だなあ、加目羅さん。


「でも、菊園きくぞのさんにはちょっと重いかな」

「そ、そうですね。これは……」


 じゃあ俺の出番だ!

 俺は鈴花に背中を向けた。


「ワン!(俺が持つよ!)」

「え、いいの?」

「ワフ!(もちろん!)」

「ははは、本当に賢いですね」


 幸い、超強い魔物の体だからな。

 それぐらいへっちゃらだ!


 そんなやり取りをしていた時、


「可愛い子犬〜!」


 後ろから声が掛かった。


 そちらを振り返ると、外国人のような金髪のお姉さんが。

 顔立ちと口調から日本人だろうけど、とても日本人離れした綺麗なお姉さんだ。


 なんだか電波系少女みたいな話し方だ。


「それにすごく賢そう〜!」

「そうなんですよ!」


 金髪のお姉さんに褒められると、鈴花はさっきの調子で俺のことを話し始めた。

 もちろん機材は俺が受け取ったぜ!


 それにしても、誇りに思ってくれてるんだなあ。

 ちょっと照れる。


「それは素敵な話~!」

「ところでお姉さんは?」

「うちはここに機材を買いに来たの。ね、加目羅さん?」

「うん。彼女はここの常連さんだね」


 それで店に入って、やり取りを聞いていたってわけか。


「うちはアリサだよ〜。鈴花ちゃんも配信を始めるなら、ちょっと先輩に当たるかな」

「そうでしたか!」

「うん、これも何かの縁だよ〜! 一緒に写真を撮らない〜?」

「もちろんです!」


 アリサさんは自撮り棒を取り出した。

 おお、さすが配信者、しっかりしてる。


「はい、ポーズ〜!」


 俺は二本足で敬礼みたいなポーズをした。

 何か特別なことをしようとしたけど、思い付かず結局変なポーズになってしまった。


「本当に可愛いな~! この子犬〜!」


 でもアリサさんは褒めてくれた。

 たしかに、普通の子犬にはできないポーズかもしれない。


「では良い配信ライフを〜!」

「ありがとうございました! 加目羅さんも!」

「ワフッ!」

「またいつでも来てねー」


 手を振って彼女らとはバイバイして帰宅した。







<三人称視点>


 鈴花や幸也が帰った裏で、SNSにある投稿がされていた。


『今日、配信のお店で見た可愛い子犬だよ〜! 飼い主さんに自ら機材を持つって言ってて、すっごく賢いの〜! ダンジョンでも大活躍みたいで、ここの店長も助けられたらしいよ〜! ダンジョン配信を始めるみたいなのでチェックしてみてね〜!』


 その投稿は数時間で5万リツイート。

 10万以上のいいねがついていた。

 

 そう、バズっていたのだ。


 彼女は『電波アリサ』。

 SNSにうとい鈴花たちは知らなかったが、SNSフォロワー200万人、チャンネル登録者150万人を誇る超インフルエンサーだった。


 投稿には多くのコメントもついている。


『超可愛い〜!』

『警察さんのポーズ?笑』

『こんな子犬いないよね!』

『すごい本当に賢いんだ!』

『機材背負ってるのかわw』

『飼い主さんも可愛いな』

『ダンジョン配信楽しみかも』

『要チェックや!』


『なんかそれっぽい動画が流れて来たぞ!』

『どれどれ!』

『あ、本当だ!』

『子犬映ってんじゃん!』

『超かわいい!』

『俺も観に行くぞ!』


 鈴花たちが知らない裏で、鈴花と謎の子犬「ユキ君」は、ある動画・・・・と共にバズりにバズっていた──。

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