第5話 いざダンジョンへ!

 朝の波乱のおさんぽ後、一度お昼を食べに家に帰った。

 昼食を摂ってから、いざダンジョンへ!


 だけど、


「わたしにできるかな」

「ワフ?」


 鈴花すずかが自室で準備中に動きを止めてしまった。


 見つめているのは……写真? はっ!

 玄関に飾られていたのは、うちの家族と菊園きくぞの家の写真。

 幼馴染の彼女とは家族ぐるみの付き合いだ。


「……」

「ワフゥ……」


 昨日今日でいくつか分かったことがある。

 

 どうやら、俺が死んだのは一か月・・・も前らしい。

 そして昨日、子犬として目を覚ました俺は彼女に拾われたのだ。


 どうして鈴花はまたダンジョンに潜っているのだろう、とは思ったりしたけど、それなら納得はできる。

 でも、こういうところを見る限り、まだ乗り越えられていない部分はありそうだ。


 そうだよな、俺はダンジョンで命を落として……って、いやいや!

 こんな時に俺まで暗くなってどうする!


「ワフ! ワフワフ!」

「ユキ君?」

「ホゥワッ!」

「ふふっ、またカンフーの物真似してる」


 なんとかこちらに気を逸らすことに成功。

 鈴花は写真立てを伏せて、俺を抱き上げた。


「わかったよ~。じゃあ行こうか」

「ワンッ!」


 俺がダンジョンで活躍して、らくさせてあげるんだ!

 

 





「ここだね」

「ワフ」


 やってきたのは家から少し遠め・・のダンジョン。


 ダンジョンとは、その昔、突如世界中に現れた未知の迷宮のこと。

 恐ろしい『魔物』という生き物が出る代わりに、「魔石」などの一攫千金も狙える未知の宝物が取れる。


 俺もその魔物の一種みたいだけど、正体は謎だ。

 まあ子犬は子犬ということで。 


 ダンジョンは地上から地下へと続く形になっており、下に潜るほど危険度は増し、宝物のレア度は上がる。

 地下とは言っても、階段の先には草原や洞窟といった未知の世界が広がるので、なんとも不思議な場所だ。


 今回は、俺が死んだ最寄りのダンジョンは避けたみたいだ。

 精神的にはまだきついのかもな。


「活躍期待してるよ~」

「ワフワフ、クゥ~ン」


 ほっぺたを揉み揉みされながら、鈴花は期待の眼差し。


 よーし、頑張っちゃうぞ!

 俺が鈴花を元気にするんだ!

 

 俺たちはダンジョンへ足を踏み入れた。

 

「暗いね」

「ワフゥ」 


 今回は洞窟のようなダンジョンらしい。

 薄暗い地下が続くような感じだ。


 でも、大丈夫!

 こんな時は……


「ワフワフ!」

「うん、付けて・・・みよっか」

「ワフー!(ピカー!)」


 鈴花は俺が被るヘルメットの明かりを付けた。

 工事現場の人がつけるライト付きヘルメットの、ダンジョン版みたいなものだ。


「これで前が見えるね。えらいえらい」

「ワフゥ~」


 お腹あたりをさすさすされて気持ち良い。


 早速役に立てたぞ!

 鈴花はなんでも褒めてくれて嬉しい!


 そうして、


「「「ガルゥゥゥ」」」

「!」

「魔物!?」


 目の前に複数体のゴブリンが現れた。


「ワフー!(下がって)!」

「うん! 任せたよユキ君!」


 俺は鈴花の前に立ってゴブリン達を威嚇する。


「ワフゥ……!」

「「「ガルルル……」」」


 魔物を目の前にすると力がみなぎってくる。

 これが闘争本能ってやつか?


「ワフー!(行くぞー!)」


 その場を蹴り出した俺は、勢いのままパンチやキック。

 速すぎる動きを壁キックで方向転換したりして、縦横じゅうおう無尽むじんに動き回る。


 ははっ、なんだこれ!


 思った以上に体が動く動く。

 俺、本当にすごい魔物なんじゃないのか。


「「「ガ、ガルゥ……」」」

「ワフ(10年早い)」


 そうして、楽しんでいる内に魔物は全滅。

 ゴブリン達を目にも止まらぬ速さで片付けた。

 

「ワフ!(どうだ!)」

「すごい! すごいよユキ君!」

 

 鈴花は駆け寄ってきて、俺を「高い高い」をする。

 男側がこれをされる機会なんてまずないだろう。


「そうだ。魔石をしっかり回収しないとね」

「ワフ」


 魔物を倒せば、魔石を落とす。

 これを売ったりして、探索者は金に換えるんだ。


「じゃあ、どんどん進も──」

「うわああああああ!」

「!?」

「ワフッ!?」


 鈴花が進み始めようとした時、前方が叫び声が聞こえる。

 今の声は普通じゃない。


「ワフワフ!(助けに行こう!)」

「うん!」


 俺たちは急いで前に進んで行った。

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