第4話 おさんぽ、おさんぽ〜

 ゼェ、ハァ……。

 お風呂では大変な目にあった。

 もはや後半部分はあまり記憶がない。


「姉ちゃん、お風呂上がったんだ」

「うん。次入りなよ」


 鈴花すずかに抱っこされるまま顔を上げると、リビングで彼女の弟に会う。


 たしか名前は『紫音しおん』。

 名字も合わせると『菊園きくぞの紫音』だ。


「わかった……てか、なんでその犬疲れてんの?」

「ワ、ワフ……?」


 お風呂では理性がぶっ壊れるかと思ったからな。

 そのせいで今はだいぶ疲れているんだよ。


「こいつ、姉ちゃんの裸で興奮してんじゃないの」

「ワフッ!?」


 だが、油断をしていたらまさかの鋭いツッコミ。

 まさか俺が人間だとバレて……?


「そんなわけないでしょ。ただの魔物よ」

「どうかなあ」

「ワフゥ~ン」


 なんとなく子犬っぽい声を出して誤魔化ごまかす。


 これ以上は分が悪い。

 早くお風呂に行け!


「……エロ犬」

「……」


 そう言い残して紫音はお風呂へ向かった。


 言い返す言葉もございません。

 僕は鈴花の裸で興奮してました。


「ごめんねーユキ君。あの子、ちょっとお姉ちゃん子なところがあって」

「ワフ(なるほど)」


 そういうことだったのか。

 ということは、さっきのは嫉妬しっとか。

 ふっ、俺はお姉ちゃんと風呂まで一緒に入った仲だぞ、うらやましいだろ。


「君にこんなこと言っても仕方ないんだけどね」

「ワフ」

「分かっていて返事をしてるのかなあ」

「ワンッ!」


 右手を挙げて分かってますアピールをした。

 「偉い偉い」をされたい欲求はもちろんある。


「ふふっ。可愛いなあ」

「ワフゥ~」


 だけど、今回はほっぺたをぷにぷに。

 これはこれで気持ち良かった。


「じゃあ今日は疲れたし、おやすみしよっか」

「ワフ!」


 そうして、抱き枕にされておやすみした。


 鈴花は「気持ち良い」と言っていたが、それは俺も同じ。

 柔かいものに包まれて興奮したが、そのうち安らぎが勝って眠りに落ちていた。







 土曜日の朝。


「おさんぽ、おさんぽ〜」

「ワフワフ〜」


 鈴花に連れられて二人で近所を歩く。


 天気は満開で、まさにお天気日和だ。

 ぽかぽかした気温はすごく心地良い。


「もう一度言うけど、逃げちゃダメだからね?」

「ワフッ!」


 鈴花がこう言うのは、首輪をしていないから。

 家を出発する時にはめられそうになったが、俺がヤダヤダと拒否した。


 苦しそうなのもだけど、首輪をされたらとうとう戻れなくなってしまいそうだったからだ。


 「好きな子に首輪をされる」。

 高校生同士には早すぎるプレイだと思う。

 一度ぐらいは体験……って冗談、冗談だから!


 そうして歩いていると、すれ違う人もチラホラ。


「可愛いワンちゃん!」

「本当だ〜!」

「ワフッ!」


 女子高生みたいな子達が寄ってきた。

 鈴花も知らないみたいだし、違う学校かな?


「触ってもいいですか!」

「どうぞ」

「きゃー! 可愛い!」

「モフモフだ〜!」


 鈴花に許可を取り、女の子達は俺を撫で始める。


「ワフゥ」


 お、おぉ、そこそこ。

 そのお腹の部分弱いんだよ。

 この子達、中々撫でるのがうまいなあ……って!


「!!」


 目を開けると、すごい光景が飛び込んできた。


 ミニスカートの女の子達。

 その子達がしゃがむとどうなるか分かるか?

 そう、まる見えなんだ!


「ワ、ワフッ!」


 いちごに、水色の縞模様しまもよう

 見たことのないカラフルな景色が広がっていた。

 健全な男子高校生には刺激が強すぎる!!


「驚かせちゃったかな」

「ごめんね〜ワンちゃん」

「ワフワフ!」


 そうじゃない、そうじゃないんだー!


「あの」

「?」


 あたふたしていると、鈴花が口を開いた。

 気のせいか、いつもより声が低く聞こえる。


「すみません。そろそろ……」

「あ、そうですね!」

「ごめんなさい!」


 鈴花がそう言うと、女の子達は「バイバ〜イ」と手を振りながら去って行った。

 ああ、カラフルパラダイスが……。


「もう!」

「!?」


 そうして鈴花は急に俺を抱き上げた。

 そのまま顔の至近距離まで持ってこられる。


「デレデレしすぎだよーユキ君!」

「……!」


 そう言いながらほほふくらませた鈴花。

 本当に怒っているのか冗談半分なのか分からないけど……か、可愛い。


「別にちょっとならいいけどお」

「ワフゥ」


 もしかして嫉妬しているのか?


「君はわたしのユキ君なんだからね!」

「ワフッ!?」


 鈴花の豊満な胸に押し付けられる。


 く、苦しいー!

 けど柔らかくて良いー!


 でも……そうか。

 嫉妬させてしまっていたのか。


 ならば!


「わわっ」


 俺は鈴花の胸を飛び出してスタッと着地。

 ある方向を指した。


「あっちに行きたいの?」

「ワフ!(うん!)」

「あっちって、もしかしてダンジョン?」

「ワフ!」


 俺は鈴花のものだと証明する!

 その為に一緒にダンジョンに潜ろう!


「うーん……わかった。君が守ってくれるって話だったもんね」

「ワフゥ!(そうだよ!)」

「じゃあお試しで行ってみよっか!」

「ワっフー!(ヤッフー!)」


 こうして、俺たちはダンジョンへ行くことに。

 なんとなくの思い付き行動だったが、これが俺たちの運命を変えることになる──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る