第3話 一緒にお風呂はまずいのでは!?

 「ふんふふんふ~ん」

 

 おいおい、これってまずいんじゃないか?

 

「今日は良い事あったな~」


 鈴花すずかの鼻歌がよく響く。

 なんたって、こんな場所・・・・・だからな。


「ほら、ユキ君も洗いましょうね~」

「……!」


 ひょいっと持ち上げられて、鏡の前へ。

 正面には俺、少し視線を上げれば鈴花だ。

 だけど彼女は……だ。


 こ、こんなの耐えられるかー!


 ここはお風呂場。

 鈴花に拾われ、俺は彼女のペットとして生きていくことに。

 そこまでは良かったのだが(良くないかもしれないけど)、なんと帰ってからすぐに彼女とお風呂に入っているのだ。


「わしゃわしゃ~」

「……!」

「ワ、ワフゥ!」


 あわあわにされて、直接鈴花に体を洗われる。

 肌の感覚とか、色々いじくられたりだとか、とにかく大変だ。

 状況に頭が追いつかず、変な声も出てしまった。

 

 考えてもみろ!?

 健全な男子高校生が、好きな子とお風呂に入っているんだぞ!?

 それも警戒心がまるで無しの状態で!


「あらら、ちょっとモフりすぎたかな」

「ワフゥ~(そうだぞ~)」

「でも可愛いだもん!」

「ワファ!?」


 さらにわしゃわしゃされる。

 もう、どうにかなってしまいそうだった。

 

 そして、ついに時は来る。


「私も洗うね~」

「……!」


 泡で隠れていた鈴花の体が洗い流され始めた。

 脱ぐ時も見えていたけど、「泡が流されていく」という未知の世界の前に、俺の頭はパニック。


 子犬ながら心臓が跳ねるのを感じていた。

 ダメだ、もう見える……!


「ワフー!」


 俺はなるべく目をつむっていた。

 ごめん嘘、ちょっと……いや、かなり見た。

 鈴花さんの発育は大変によろしかった。


「じゃあ温まろうね」


 体を流し終えた後はそのまま浴槽よくそうへ。


「ばっしゃ~ん」

「!」


 途端に感じたのは、騒がしかった内心をなだめるような至福。

 気持ちを落ち着かせるにはぴったりだ。


 ああ、体の芯から温まる。

 気持ちええ~。

 

「ワフゥ……」

「あら、気持ち良いんだ」

「ワフッ!?」

 

 しまった、あまりの気持ち良さについ声が出てしまった。

 意識していないと声が漏れ出てしまうな。


「賢いんだね~。えらいえらい」

「……!」


 鈴花は俺の頭をなでなでした。


 ああ、ダメ、それめっちゃ良い……。

 これは子犬ならではの敏感びんかんさのか。

 ペットがなでなでを要求してくる気持ちがようやく分かったよ。 


 そうして、鈴花はふいに俺と目を合わせた。


「わたし、ペットって初めてだから嬉しいんだ」

「ワフ」


 そういえばそうだな。

 俺がしがみついた時も、まず費用の事を気にしていたし。


 昔から父子家庭で「自分がしっかりしなきゃ」って、家事もほとんど鈴花がやっていたんだっけ。

 だからこそ、動物好きの彼女はペットを我慢してたんだと思う。


 そんな彼女が、最終的に俺を引き取ってくれた。

 何か力になれるよう頑張らないとな!


 だが、


「でも、どうして君はあんなところにいたの?」

「!」

「しかも、わたしを守ってくれたし」

「ワ、ワフ……」


 次の言葉にはなんと返せばいいやら。

 答えが見つからず、思わずうつむいてしまう。


「って、ユキ君に聞いても仕方ないよね」

「ワフン(そうだ)」


 なんとなくうなずいておいた。


「……」


 俺の事をじーっと見つめる鈴花と目を合わせながら考える。


 いつか本当の事が言える日が来るんだろうか。

 だけど、もし仮に俺が人間に戻って、実は「ユキでした」なんて言ったら彼女はどう思うだろうか。


 とりあえずお風呂の件は殴られることが確定だ。

 でもそれ以外は分からない。

 そもそも、俺も人間に戻りたいとは今のところ思っていない。


 ……今は答えが出そうにもないな。


「さて、そろそろ上がろっか」

「ワフッ!?」


 ざぱっと立ち上がった彼女の体はまる見え。

 ちょっと冷静に考え事をしていたばかりに、びっくりして頭がクラっとした。


「ユキ君! 大丈夫!?」

「ワフゥ……」


 感情の浮き沈みが激しくて完全にのぼせていた。

 今頃、俺の目は×になっているだろう。


 こんな生活、俺はやっていけるのだろうか……?

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