見舞い

 山河達は小児病院個室前で立っていた。表札には部屋番号と氏名が書かれている。山河は深い深呼吸を数回行ってから扉を開けた。部屋にはテレビや洗面台、トイレと言った生活必需品が置かれている。光が部屋の窓ガラスを通してベッドで眠りにつく少女を照らしていた。


 少女を見た直後、山河は夢では無かったと認識する。その少女は彼が告白しようと思っていた舞原だったからだ。頭に分厚い包帯がまかれており、右腕には点滴が刺さっている。静かに眠っているものの、目覚める気配は無かった。


 山河は彼女の症状を見て、学校に行ってなかった時に調べた症状の一つを思い出した。遷延性意識障害せんえんせいいしきしょうがい所謂いわゆる植物状態である。脳に障害を負い体が動かせなくなり、回復しても後遺障害が残る可能性が高い。


「こんな……こんなことってあるかよ……俺があの時事故にあっていれば! こんなことにはならなかったはずなのに!」

「ばかやろぉ!」


 右頬に衝撃が走ると同時に、山河は病室の壁に叩きつけられる。体が壊れたんじゃないかと錯覚する痛みにうずくまっていると銀司が顔を赤くしながら叫ぶ。


「舞原ちゃんはな、お前を身をていして助けたんだぞ! それなのに、お前はそんな情けないことを言うのか! 舞原ちゃんに申し訳なく思わないのか!」


 銀司の言葉を聞いた山河は左腕で鼻血を止めつつ、激昂する。


「わかってる……わかってるさそんなこと! げどなぁ! 俺は俺以上に彼奴が大切だったんだよ!!」


 山河は銀司の顔を見つめながら両拳を握りしめる。頬を鼻血と涙が伝い、床を赤く染めていく。


「どんなことをしてでも、カノンを守りたかった……それなのに、俺はなんも出来なかった。トラックが来たときに俺が立ちすくんでいたから、カノンが身を投げ出したんだ……」


 山河は目元を塞ぐように前髪を持ち、乱暴に引きちぎろうとする。


「全て……こんなことになったのはすべて! おれが!! おれがぁ!!!」

「山河。本当にすまなかった。お前は本当に頑張ってるよ」


 銀司は激昂する山河に近づき頭を撫でながら謝罪する。声色は落ち着きを取り戻し平静を取り戻していた。山河は銀司の胸元に頭を預け、涙と鼻血を流し続けていた。


 それから数分後――彼らは病院関係者から病室を追い出された。舞原の両親の前で二人一緒に土下座し病室出禁は回避したものの、次やったら二度と入らせないと釘を刺された。


 そして、彼ら二人は親にこっぴどく叱られることになる。まず、銀司は学校をさぼったことが顧問にもばれたため練習試合を一試合出場禁止にされた。野球大好き少年の銀司にとって辛い物だったが傷害事件で部活を出禁にされるよりましだった。


 山河は、親から学校に行くかを選択出来る代わりに風呂掃除と食器洗いを命じられた。比較的軽めな罰則だったが家事をした事が無い山河にとって辛いものだった。

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