少年は幼馴染を救うために化け物を斬る

チャーハン

恋路の終わりは唐突に

 日常の終わりはいつも突然訪れる。学校帰りの交差点前で信号が青になるのを待ちながら叢雲山河むらくもさんがは胸の鼓動を感じていた。初めて告白するからだ。告白相手は、肩までかかる黒髪を風になびかせ笑みを浮かべる幼馴染、舞原香音まいはらかのん。山河にとって彼女は血縁上の人間以上に大切な人物だ。山河は信号が青になったことを確認してから横断歩道に出る。

 山河は顔を赤らめながら思いのたけを伝えようとした。


「俺、舞原のことが――」

「危ない!!」


 大声が聞こえた直後、山河は突き飛ばされた。

 何事かと思いつつ目を開く。

 そこに広がっていたのは彼には受け入れがたい光景だった。



「それじゃ、お母さんお仕事行ってくるから。静かに待っていなさいね」


 鍵が閉まる音が聞こえた後、静寂が訪れる。

 山河は自室の角に体育座りしながら顔をふせた。

 時計の針は八時を指していた。登校準備をしても遅刻である。


 右こめかみに生えた髪の毛を右手で回しつつ、窓の外を眺める。鳥が一匹窓の外を通り過ぎた。色合い的に鳩だろうか。山河はそう思いつつ下を向く。時計の針音が五回進んだ後、山河は立ち勉強机の引き出しを開けた。


 引き出しには筆記用具と教科書、ノートが丁寧に敷き詰められている。その中に写真が置かれていた。桜色の木々に入学式と書かれた看板が映った写真が入っている。山河の両隣には笑みを浮かべた最愛の少女と大柄な体躯の男が立っている。


 数十秒間写真を手に取り眺めていると、インターホンが鳴った。誰だろうかと思いつつ山河は扉を開ける。そこにいたのは大柄の体躯と鋭い目を持つ男だった。


「久しぶりじゃのう、山河。体調は良い感じかの?」

「久しぶり、銀司。体調は悪くはないよ」


 山河の問いかけに対し、小梅銀司こうめぎんじは笑みを浮かべた。


「折角じゃ。一緒に散歩でもせんか?」

「いいけど、学校は?」

「さぼった」

「マジか……」

「まぁまぁええじゃろ。待っとるから用意してきんしゃい」


 神妙しんみょう面持おももちの山河に対し銀司は笑い声を出していた。

 山河は自室に戻り準備を開始する。寝着を脱ぎチェックのワイシャツ、ジーンズ、黒靴下の順に着替えを行う。リュックに最低限持ち物を詰めた後、階段を下り黒色のスニーカーを履く。戸締りを確認した後は鍵をリュックにしまった。


「それじゃ、行くとするかのぅ」


 熱いアスファルトを踏みしめつつ、二人は散歩を始めた。じめじめとする熱さが五月であると認識させる。車道を通る車は数台見えるが、速度が出ており細かい情報は認識出来ない。

 ふと、山河は空を見上げる。快晴の青空を一匹の鳩が飛んでいた。

 本来鳩は群れるはずなのに不思議だな、と山河は感じていた。


 信号の前まで辿り着き赤から青になるのを待つ中、山河は口を開いた。


「ありがとうな、銀司。俺のこと、気遣ってくれたんだろ?」

「なんのことじゃ?」

「とぼけなくてもわかるよ。俺があのことひきづってるって思ったんだろ?」

「……あぁ、そうじゃの。正直、ワシはお前さんが潰れてしまわないか心配じゃった。それにワシにも責任があるしの」

「――さぁ、どうだかな」


 圧し口になっている銀司をよそに、山河は信号が青になったことを確認してから横断歩道を渡り終える。そんな時、山河の頭にとあることが思い浮かんだ。


「なぁ、銀司。香音のお見舞い行ってもいいかな?」


 銀司は一瞬驚いた表情を浮かべたが、平静に戻り山河の提案を受け入れた。

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