第6話「女神様はもういない」

 今日の、女神様は。


「ようこそ、勇者よ」


 何時にも増して、美しい。


「私は、いつもお待ちしておりました」


 きらびやかな、ウェディング・ドレスに身を包んだ彼女。


――……?――


 ただ。


――……あれ、女神様?――


 何か、顔に無数のアザがあるのが、気にはなるが。


「……さあ、勇者よ」


 本人はそれに気がついているのかどうか、そのまま満面の笑みを浮かべつつ。


「それでは、世界を……」


 ステータス・オープン!!


――HP/0――


――武器/魔法の御守り――




////////////////




 どこまでも晴れた、青空。


「……いい、天気だ」


 丘に立つ僕の真下には、日々の営みを続ける、生き生きとした街並み。


「……おや、あれは?」


 そして、その街の外れで。


 リィン、ゴォン……!!


 大きくベルを鳴らす、おそらくは誰かの結婚式を挙げていると思われる、教会。


「……あっ!?」


 そして、その教会から僕に向かって、走り寄る純白のドレス。


「……さん!?」


 いつの間にか、本当にいつの間にか彼女は、そのドレスを翻して、僕の目の前にたたずみ。


 ニ、コォ……


 と、満面の笑みを浮かべている、その彼女は、女神様と同じウェディング・ドレスを、優雅に舞わせ。


……サァ!!


 その手に持つ、大きな花束は。


「……ちょ、ちょっと、芽加美ちゃん!?」


 ア、アァ……!!


 その、花束は、空に舞い、あらゆる色を、世界の一面に、飛び交わせ。


……スゥア


 そして、僕の手のひらに飛び込んで来たのは、彼女の御守り。


「……あっ」


 それは、彼女が肌身離さずに持ち歩いていた、魔法のアイテム。


「魔法の、御守り……」


 その、究極のチートアイテムを、僕は美しき彼女の手に帰そうとした、時。


――勇沙君――


 骸は、花嫁姿の骸骨は、その空虚な瞳で、僕にそっと。


――タスケテ、勇者、クン――


 かすれた声で、訴える。




////////////////




 夢を、見ていたらしい。


「……そうか、僕も」


 もはや、いない彼女の。


――あの殺人事件から五年、ようやく君は目が覚めたね――

――そんなに、僕は寝ていたのですか、先生?――


 この世に、存在しない彼女の。


――ああ、妻を殺した、虎駆死刑囚に轢かれて、ね――


 そう、彼女の夢を。


「……でも」


 出来る事なら、あの彼女を観る夢であったら。


「幸せな、そう幸福な夢を」


 ぜひ、見たかった。


「……僕は、勇沙は」


 結局、僕は、間に合わなかった。


「……助けられなかった」


 本当の勇者に、なれなかった。


「……彼女を、トラックから、助けられなかった」


~END~

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異世界転生したボクが女躯様に肉い血ートスKILLを漏ラって夢想した腱 早起き三文 @hayaoki_sanmon

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