第3話「天に召された彼女」

……女神、様。


「ようこそ、勇者よ」


 と、彼女は言えるのか、どうか。


「貴方は、この世界に転生されたのです」


 その声から、例の彼女であるとは思うが、その全身は。


……ズゥウ


 腐りかけ、ナニかがその顔に蠢いている、女神様。


……グゥ


 彼女の纏っている、純白の衣には、腐敗した肉体から流れる汚濁の物、それによって、所々が穢らしく汚れ、清らかな白を。


 チュウ、グゥ……


 まだらに、赤く黒く、染める。


「……さあ、では始めましょう」


 ステータス・オープン!!


――HP/0――


――武器/魔法の御守り――


「……」

「では、勇者殿」


 そして、彼女がその、澱む手を、腕を伸ばし。


「これは、最強のアイテム」


 と言いつつ、僕に。


 チャ、ラ……


 安っぽい、まさしくオモチャである、アクセサリーを手渡す、と共に。


「……この世で」


 汚ならしい音を立てて、女神様のその腕から、肉がポロリ。


「最強の、無敵のチートアイテムです」


 ポロリィ、と、蟲の群れと共に落ち、そして。


「さあ、セカイを救うのです」


 彼女の、女神様の赤黒い躯が。


……クゥ


 僕の目の前に拡がり、覆い被さり。


 トゥ


 水音。


 トゥ、ン……


 それのみが、赤と黒の世界の中で。


「……オ行きなサイ、勇者サマ」


 僕の耳に、清らかに滑り込む。




////////////////




 邪悪な魔王との戦いで、彼女は死んだ。


……シャ、ア


 清冽なる、純白の輝きに包まれた神殿。


――……ちゃん――


 天からは、暖かな慈悲の光が降り注ぎ、それが。


――目を、覚ましてよ――


 神殿中央、その石の祭壇に横たわる、僕の最愛の人を。


――……ちゃん――


 清く輝く神殿の中央で、静かに横たわる、彼女の亡骸を、美しく照らす。


――……――


 その彼女の魂、心はいつまで経っても、戻る気配はない。


――……くそ、何が最強の!!――


 最強の、チートアイテムだ。


――……何も、愛する女性一人、救う事も、出来やしない!!――


 その、怒りと哀しみに震える僕の手の内にあるのは、魔法の御守り。


――……こんな!!――


 彼女の、チートアイテム。


――こんな、安物!!――


 僕は。


サォア、アァ……!!


 色とりどりの花に囲まれ、差し込む光に包まれたまま、眠る彼女の。


――……だったら――


 静かに、眠っている彼女の。


……スゥ


――……ちゃん、今――


 その、白い腕から、幾多の管を。


――楽に、してあげるよ――


 ズゥウ!!


――……ピー!!――


 一気に、引き抜いた。


……トゥ


 水音、水滴の音が。


……


 無くなった。


――いや、まだ――


……トゥ、ン


 まだ、聴こえる。


――……クン、君――


 彼女の、閉じた瞳から。


――……君、どこなの?――


――……ちゃん、僕は――


 それに、加えて。


――僕は、ここにいるよ――


 僕の、瞳からも。


――いつまでも、いるよ――


 水の音が、未だに響く。




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