第43話 鬼の商談



 12時少し前になんとか冒険者ギルドのホールに到着した。

 「それで、そのAランクのパーティーの名前は?」

 「忘れたww」

 しゃーないやん、おっさんのハーレムチームだったのは覚える価値ないし!!

 「お前興味のない事は直ぐ忘れるもんな。うん、分かってたけどさ。これは無くね?代金回収出来なかったら化粧品セットのボトル10万個製作な。」

 宥子ひろこのあんまりな言葉に

 「ギェェ、殺生な!嫌だ、そんなしたら私の遊ぶ時間がなくなる!!」

嫌やー泣きを入れるも宥子ひろこは冷たく

 「馬車馬のように働け」

と切り捨てた。

 私と宥子ひろこのやり取りを見ていた、見知らぬおっさんと数人の女に声を掛けられた。

 「マサコ!来てくれたんだな」

 宥子ひろこに声を掛けてるおっさん、宥子ひろこの機嫌が下がっている。

 「容子まさこはこれ。私は姉のヒロコです」

 嫌やーと文句を言ってる私の背中をゲシッと蹴りを入れ挨拶をすると、おっさんパーティが目を丸くした。

 「見分けがつかないくらい似ているわね」

 そりゃ一卵性双生児だもの。実親ですら間違うくらいだもの、似ていて当たり前。

 「早速だが、昨日マサコにも言ったんだが……」

 性急に話を進めるおっさんに宥子ひろこの機嫌は落ちて行った。米神に青筋が出来てる事に気付けおっさん、絶対零度の視線に気付けっておっさんパーティ!!

 私の祈りが通じたのかパーティの女が、捲し立てているおっさんを止めた。

 「ガルガ、ヒロコが引いているわよ。」

 初対面で呼び捨てかよ!宥子ひろこが一番嫌う所だ。もう話は終了したな。

 「私は、チームバルドの魔導士リリアナよ。この男は、バルドのギルマスのガルガ。ジョブは戦士ね」

 TPOを弁えずにペラペラ喋り出す彼等に宥子ひろこが絶対零度の

 「あの、場所を変えませんか?昼食しながらお話を伺うことになったと容子まさこから聞いてますので。」

営業スマイルでさっさと出るぞと連中を冒険者ギルドの外へと追い出した。

 チームバルドの構成は、魔導士リリアナ・戦士バルド・剣士フィーア・聖魔導士のテレサの四人だ。

 壁役はバルドが兼任しているらしい。だから盾と片手剣なのか。

 パーティー構成としては、後衛に偏りがあるのでアタッカーが後1人居れば安定したパーティーになるだろう。

 私に目を付けたのは当たりだが、パーティーに引き込むことは出来ない。

 何といっても宥子ひろこ契約|契約《ティム》されているからね!

 契約ティムを解除されれば、サイエスに来ることすら出来なくなる。それは困るのだ!!

 リリアナお勧めのレストランに入り、宥子ひろこは即座に個室を頼んだ。

 「個室だなんて、高いじゃない。普通の場所でも良いよ。」

 「いえ、個人的な商談なら他の方の目がない方が良いです。食事・個室の代金は私が持ちますのでお気になさらず。」

 宥子ひろこの魂胆が手に取るように分かる。厄介事除けだな。

 「いや、奢って貰うのは気が引ける。」

 アホだなコイツ。社交辞令が宥子ひろこに通じると思ってんのか?

 「では、食事代のみお支払いお願いします。」

 ほら見たことか、姉の言葉に、何か期待を裏切られたような目をすんなし。

 本当は割り勘させても良いと思ってるんだぞ?個室代こっち持ちで食事代なんか持ちたくねーわ!

 個室に通され、部屋がギュウギュウになった。通された個室自体大きくないからかもしれない。

 取敢えずランチセットを人数分+契約ティムカルテットの分を頼み、配膳されたところで商談スタートを切った。

 「マサコから聞いていると思うが、斧を買い取りたい。」

 「その前に、昨晩のポーチや化粧品、アクセサリーの代金をお支払いお願いします。支払われる前に容子まさこは酔い潰れ、代金を頂かずに帰ってしまわれたので、まずはお支払いをお願いします。」

 私に聞いた内容を書き起こし、請求書を渡している。

 「総額金貨98枚ってボッタクリだろう!!」

 「内訳書かれていますよね?お読みになりました?化粧品1セットで金貨14枚、それを3セット購入されています。後、様々なアクセサリーや装備も購入されてます。本来なら売出す予定などなかったのをこの馬鹿が勝手に売ったので、素材代と手間賃だけ請求させて頂きました。正規の値段で良ければ、もっと高くなりますよ?アンナさん、これらを見てどう思われますか?」

 「そうですね。もっと高くても宜しいかと思います。特に容子まさこ様の作品は、デザイン性も良く付与魔法も掛けられているので倍の値段になるでしょう。それに、エリーゼ様が認められた方ですわ。1点もので希少性も高いとなると破格ですわね。」

 「エリーゼ様って、あのファレル領主の正妻様じゃないか!」

 煩いなぁ…宥子ひろこの機嫌は増々悪化してるじゃん。

 「だそうですよ。どうします?正規の値段で買いますか?」

 宥子ひろこが畳みかけるように言うと、首を横に振り金貨98枚を支払ってくれた。最初から素直に支払えば良えのに。

 「それで、本題なんだが」

 「ああ、武器は売りませんよ。容子まさこも貴方のパーティーに入れることは出来ませんし、私も加わることはしません。」

 本題を言われる前に先制口撃をした。

 先に釘を刺されるとは思わなかったようで、おっさんは言葉に詰まっている。

 「あれだけの性能なんです!そこを何とか譲って頂けませんか?」

 「届けて下さったのは感謝しますが、無理です。武器を売るつもりはありません。大体、あれは私が契約ティムした者たちの武器なので売るつもりはないんです。」

 契約ティムカルテットが、勝手に作って蛇ちゃんズが投擲したものなんだけどなぁ。

 いわゆる使い捨て武器だったらしいが、色々とチート過ぎるのは間違いないので、今後は要回収が必要になる。

 「蛇やスライムが使いこなせるわけないだろう!」

 「いや、使いこなしてますよ。使いこなさなくても売りませんし。私は商人ですけど、武器商人ではないんです。万が一、作った武器で人を傷つけるなんて想像しただけでも吐き気がします。だからお引き取り下さい。」

 宥子ひろこが、お帰りはあちらですよ、と個室の入口を指すとグッと言葉に詰まって大人しくなった。

 しかし、席は立とうとしない。

 ウザイなぁ。

 宥子ひろこの機嫌は最底辺だ。あまり刺激しないで欲しい。

 面倒臭そうに宥子ひろこが、席を立とうとしたらリリアナが口を開いた。

 「武器は売らなくても良いから、私らのギルドに入らない?マサコが1人でゴブリンの集落を壊滅させるくらい強いなら、お姉さんの貴女も相当な手練れでしょう。うちらのパーティー、アタッカーが少ないから入ってくれると助かる。」

 うぉー図々しい女だな。と思ったら宥子ひろこも思ってたようで、宥子ひろこの容赦ない本音が口から洩れている。唖然とした彼等を余所に、特大の溜息を吐いた宥子ひろこの肩を私が、トントンと叩いて言った。

 「心の声全部駄々洩れだから」

 「良いんじゃない?別に隠す気ないし。本音を聞けて良かったでしょう。と言う訳で、お断ります。これから別の用事がありますので、失礼します。容子まさこ、アンナさん行きましょう」

 契約ティムカルテットをさっさと回収して、唖然としているチームバルドを放置し自分たちの分だけ支払って宿に戻ってきた。

 当てが割れた部屋に入り、内鍵を施錠したのち、自宅を出す。

 突如現れた宙に浮くドアに唖然とするアンナさんの手を掴み、私たちは地球への帰還をしたのだった。


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